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手ぬるい業界批判『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(リューベン・オストルンド、2017年)


映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』予告編

 

スウェーデンの監督リューベン・オストルンドが、自身が制作した美術作品をモチーフとして制作したドラマ映画。平等や思いやりを謳う展覧会を企画しておきながら、無自覚にその理念とはかけ離れた行動をとってしまうキュレーター・クリスティアンの日々を追うことで、格差社会を見て見ぬ振りをするアート業界および富裕層の偽善や傲慢さを風刺している。


しかしクリスティアン個人の人間的な弱さや曖昧さを強調しすぎたために、アート業界批判は手ぬるいものになってしまったと言わざるを得ない。


例えば展覧会の宣伝動画が「炎上」するシークエンス。広告代理店が話題づくりのために提案した過激なアイデア(路上生活者の少女が「思いやりの聖域」であるはずの作品《ザ・スクエア》のエリア内で爆死する)に対し、プライベートのいざこざで心ここに在らずなクリスティアンは内容をよく確かめもせずゴーサインを出し、知らぬ間に美術館のウェブサイトやYouTubeで公開されてしまう。当然この動画は世間から激しいバッシングを受け、クリスティアンは辞任に追い込まれることになる。


一見、批判の矢面に立たされているのはクリスティアンおよび美術館関係者のようであるが、もともと動画のアイデアを出したのは(アートへの理解のない)広告代理店であり、またクリスティアン個人の不注意が重なった結果の不運であるという逃げ道が残されている。結果的にはキュレーターがしっかり仕事をしていればじゅうぶん回避できた炎上事件として描かれているため、オストルンドの批判の矢はアート業界が構造的・本質的に抱える問題に届く前に墜落してしまう。この映画が本気でアート業界批判に取り組むつもりならば、キュレーターが万全を期し、堂々と世に問うた宣伝動画が炎上しなければならなかった。