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揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

いま、個人映画を観るということ(三)いまこそ飯村隆彦を読/見直す

 

11月23日(月・祝)の文学フリマで頒布される同人誌『ビンダーVol.3』(特集「ゴダールgdgd妖精s」)に参加しています。ブースはキ-05〜06。私は連載「いま、個人映画を観るということ」の第3回「いまこそ飯村隆彦を読/見直す」を書きました。

飯村隆彦という作家を歴史化するのではなく(それについては、すでに優れた仕事が多くありますから)、本連載の当初からの主旨どおり、いま彼の作品を見ることにどのような意義があるのか、同じ映画作家としてどんな刺激を受け取ったのかという、生っぽい作品論を書きたいと思いました。

具体的には、(1)ただひたすらに画面に映るものを見つめるという表象批評的な態度で飯村作品を見直してみる。(2)飯村自身の指示(テキスト)に従って作品を読み直してみる。ところが結果、1と2はある意味で同じ場所に帰着します。すなわち「飯村隆彦」という固有名に。その迷宮的世界に。

 

いま、個人映画を観るということ(三)
いまこそ飯村隆彦を読/見直す

・ハイコンテクスト/ローコンテクスト
・飯村隆彦の「ビデオ記号学
・飯村隆彦の「顔」と「テキスト」
・飯村隆彦の「神話」
・いまこそ飯村隆彦を読/見直す

 


飯村隆彦のDVDアート*DVDArt of Takahiko iimura - YouTube

 


初期ビデオアート集 *EARLY CONCEPTUAL VIDEOS - YouTube

チェーンブレイカー

 

私が脚本を担当した映画『チェーンブレイカー』(ワタナベカズキ監督)の上映が11月におこなわれます。自作以外の脚本を書いたのは初めて。どんな作品になっているのか、今から楽しみです。

 

三代川達 第10回上映会 base ten number system

11月7日(土)、8日(日)15:30、19:00
11月9日(月)〜11月13日(金)21:00

 ※上映後、毎回イベントあり

料金前売¥900 / 当日¥1,500(共に1ドリンク¥500別)
会場 UPLINK FACTORY(1F),ROOM(2F)

公式ウェブサイト

 

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佐々木友輔×udocorg×三代川達『チェーンブレイカー』

監督:ワタナベカズキ
脚本:佐々木友輔 撮影監督:udocorg(DID)
出演:阿知波妃皇、松本高士、鶴田理紗(白昼夢)、二見香帆(ブルドッキングヘッドロック)、菅原佳子、伊神忠聡、原彩弓(メロトゲニ)、神崎ゆい、上野裕子、風間竜一、里村孝雄

 

みだりに吉凶禍福を説き、または祈祷・符呪等をなし、人を惑わして利を図る者は、死刑または無期もしくは3年以上の懲役に処す――。
2014年の刑法改正によりこの時代錯誤な条文が削除されて以来、各地で原因不明の死亡事件が多発し始めた。 「呪い」の時代の幕開けである。憎しみが憎しみを呼び、死が死を招く恐怖の連鎖に巻き込まれた美大生の珂奈は、その死の運命を断ち切れるのか。 ニューメディア・ホラーヒーローの誕生譚。

 

 

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Web漫画の1話目が好きだ。

 

出版社や担当編集がついているわけでもなく、
従って当然、長期連載を前提とした気負いもない。

 

落書きすれすれの作画。
出落ちのようなネタ。
お約束の展開。
さくっと読める1話完結の物語。

 

けれども、
カチカチと「次へ」を押して読み進めるうち、
登場人物たちへの愛が芽生えてくる。
謎に満ちていた世界のありようが浮かび上がってくる。

 

そしてシリアス展開へ。

 

ふと1話目の牧歌的光景がよみがえる。
その時間があったから今がある。
しかしもうその時間は戻ってこない。

 

そう、第1話とは、いまだかたちにならざる
Web漫画の潜在性そのものだったのだ。

 

ここからわたしたちはどこへでも行ける。
どんなものにでもなれる。

 

そんな「1話目」のわくわく感を映画にできたら。

 

『チェーンブレイカー』の脚本を書くとき、
そのようなことを考えていた。


願わくは本作が、
かつてわたしを熱狂させたものたちのように、
誰かにとって新しい世界を予感させるものとなりますように。

「動画の時代」の「映画批評」はいかに可能か——「ポストメディウム的状況」を考える

 

限界研の新刊 『ビジュアル・コミュニケーション』の刊行記念トークイベントに参加します。

11月17日(火)19:30〜、ジュンク堂池袋店にて開催です。

 

ビジュアル・コミュニケーション――動画時代の文化批評

ビジュアル・コミュニケーション――動画時代の文化批評

 

 

『ビジュアル・コミュニケーション』(南雲堂)刊行記念トークイベント

佐々木友輔×三浦哲哉×渡邉大輔(司会進行:冨塚亮平)
「動画の時代」の「映画批評」はいかに可能か
「ポストメディウム的状況」を考える

 

ここ最近、映画の世界は大きな変化を迎えている。誰でもスマホで「映画」っぽいものが作れ、ネット上にはVine動画やゲーム実況など、いままで見たこともないような新しい映像コンテンツが映画と肩を並べるようにして、活況を呈するようになりつつある。『映画とは何か』(筑摩書房)など、映画の現在について先鋭な批評活動を繰り広げる俊英・三浦哲哉氏をゲストに迎え、9月末刊行の評論集『ビジュアル・コ
ミュニケーション——動画時代の文化批評』(南雲堂)の内容を踏まえ、こうした「動画の時代」にかつての「映画批評」はどのように対応していくべきなのか。『ゼロ・グラビティ』『親密さ』『ルック・オブ・サイレンス』『THE COCKPIT』……などなど、数々の話題作を素材に、そして映画誕生120年の現在、あらためて「映画」と「映像」の関わりについて「映画批評」の観点から徹底的に語り合う。

 

 

佐々木友輔─ささき・ゆうすけ
1985年神戸生まれ。映像作家、企画者。近年の上映・展示に「反戦 来るべき戦争に抗うために」展、第7回恵比寿映像祭、編著に『土瀝青—場所が揺らす映画』(トポフィル)、論考に「二種類の幽霊、二種類の霊媒—揺動メディアとしての映画論」(『ART CRITIQUE n. 04』所収、BLUE ART)など。

 

三浦哲哉─みうら・てつや
1976年福島県郡山市生まれ。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。現在、青山学院大学文学部准教授。博士(学術)。専門は映画批評・研究、表象文化論福島県内外での映画上映プロジェクトImage.Fukushima代表。主な著書に『映画とは何か: フランス映画思想史』(筑摩書房)、『サスペンス映画史』(みすず書房)など。

 

渡邉大輔─わたなべ・だいすけ
1982年生まれ。映画史研究者・批評家。専攻は日本映画史・映像文化論・メディア論。現在、跡見学園女子大学文学部助教日本大学芸術学部非常勤講師。著作に『イメージの進行形』(人文書院)、共著に『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』(森話社)『見えない殺人カード』(講談社文庫)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)『ソーシャル・ドキュメンタリー』(フィルムアート社)『アジア映画で〈世
界〉を見る』(作品社)など多数。近刊共著に『日本映画の国際進出』(仮題、森話社)。

佐々木友輔 新作上映[Epoch]

 

22日(日)の回は定員に達しましたため、
受付を終了させていただきました。

当日券扱いにて、作品をご覧いただくことは可能ですが、
ご予約の方を優先でお通ししますので、
少々見づらい(3D効果が得づらい)座席に
なってしまうかもしれないことをご了承ください。
上映の5分前(18:55)から受付・ご入場いただけます。

なお、21日(土)の回はまだご予約を受け付けております。

 

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『落ちた影/Drop Shadow』

 

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『And the Hollow Ship Sails On』

 

佐々木友輔 新作上映[Epoch]

 

日時:2015年11月21日(土)、22日(日)※22日は受付終了

   開場18:30、上映19:00(20:10終了予定)

料金:1500円(定員25名、要予約)

会場:新宿眼科画廊(東京都新宿区新宿5-18-11)

上映作品:『落ちた影/Drop Shadow』(アナグリフ3D)

     『And the Hollow Ship Sails On』(2D)

お問い合わせ:qspds996.info(at)gmail.com

予約方法:(1)お名前(2)人数(3)希望日 以上の要項を明記の上、件名を「予約/佐々木友輔 新作上映」として qspds996.info(at)gmail.com までメールでお申し込み下さい。

 

アナグリフ3Dによって得られる立体感には個人差があります。強い眼の疲労や気分が悪くなるなどの症状が出た場合は視聴をお控えください。観賞は自己責任でお願いします。6歳以下のお子様はご覧いただけません。

 

 



『落ちた影/Drop Shadow』

アナグリフ3D 約30分 2015年

出演/菊地裕貴、永田希、小林千花 音楽/田中文久 協力/門眞妙

2015年。正体不明のウィルスによる死亡事件が相次ぐ中、孤独に生きる男・渡利雅はニュースサイトでかつての恋人・乃亜の名を目にする。乃亜の結婚相手である真瀬利治がウィルス事件の容疑者として指名手配され、その火の粉が彼女にも降り掛かっていたのだ。渡利は事の真相を知るべく、真瀬利治に関する情報を調べ始めるが……。アナグリフ方式による3D上映に加え、全編がパソコン&スマートフォンの画面上で進行するデスクトップ・ノワール

 

 

『And the Hollow Ship Sails On』

2D 約30分 2015年

朗読/菊地裕貴 音楽/田中文久 協力/佐々木つばさ

19世紀、21世紀、そして23世紀、茨城の原舎浜を三たび訪れたまるい舟。中には黒い箱を抱えた女がひとり微笑んでいた。人びとは彼女を出迎え、その歌声に魅了されるが、やがて疑いを抱きこの国から追放してしまう。彼女を慕う少数の者たちは、再びうつろ舟がやって来る日を待つのだった。江戸時代に曲亭馬琴らが広めた伝説「虚舟」(うつろぶね)をモチーフに、三つの時代、三つの記録メディアのかさね合わせにより描く、新たな風景映画。

 

ビジュアル・コミュニケーション——動画時代の文化批評

 

ビジュアル・コミュニケーション――動画時代の文化批評

ビジュアル・コミュニケーション――動画時代の文化批評

 

 

限界研の新刊『ビジュアル・コミュニケーション——動画時代の文化批評』に寄稿しました。「三脚とは何だったのか——映画・映像入門書の二〇世紀」と題し、戦前から現代までの映画・映像制作入門書の分析を通じて「三脚」に設置されたカメラを前提とする映画史とは異なる歴史の記述を試みています。こちらのサイトでは序文が試し読みできるようです。

 

また、書籍の刊行に合わせて執筆陣でおこなった座談会が「Yahoo!ニュース個人」の飯田一史さんのページで公開されました。私もあれやこれやと話しています。

 

(1)映像はいかに変わったか――ポストメディア化と「ハリウッド的」なるものの変容

(2)認知科学や神経科学的知見の映像研究への応用について

(3)「中間映画」的領域をいかに再興するか

(4)機械と人間のインタラクションをいかに利用し、映像/視覚文化に偶発性と新奇性を取り込むか

(5)映像/視覚文化におけるアクセス可能なアーカイヴと体験性の相補関係

(6)「ながらメディア」としての長尺映像に適応していく身体

(7)親がネットに写真をアップしまくる時代に子どものアイデンティティはどうなるか

(8)視覚文化研究の現在と、映像批評の受容/需要

なぜ「私」が撮るのか 髙橋耕平作品《HARADA-san》上映&トーク

 

「なぜ「私」が撮るのか」 髙橋耕平作品《HARADA-san》上映&トークに参加します。初引込線です。

 

hikikomisen.com

 

なぜ「私」が撮るのか

初老のアートウォッチャーを題材にしたドキュメンタリー映像と年表からなる、髙橋耕平の作品《HARADA-san》を上映。 その後、作者とゲストが“なぜ「私」が撮るのか”をテーマに議論する。

 

企画:櫻井拓
メンバー:川村麻純、佐々木友輔、髙橋耕平
日時:9月13日(日)11:00~13:30

 

川村麻純 KAWAMURA Masumi
2012年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。主な展覧会に、「展覧会ドラフト2015PARASOPHIA特別連帯プログラム 川村麻純『鳥の歌』」(京都芸術センター、京都、2015年)、「第7回シセイドウアートエッグ展『川村麻純 Mirror Portraits』」(資生堂ギャラリー、東京、2013年)、「Mirror Portraits」(LIXILギャラリー、東京、2012年)、グループ展「8人の女たち」(クリエイションギャラリーG8、東京、2015年)など。平成27年度新進芸術家海外研修制度(長期)で、2016年春よりNYへ1年滞在予定。

 

佐々木友輔 SASAKI Yusuke
1985年神戸生まれ。映像作家、企画者。東京藝術大学大学院美術研究科博士課程修了。近年の上映・展示に「反戦 来るべき戦争に抗うために」(SNOW Contemporary、東京、2014年)、「第7回恵比寿映像祭」(恵比寿ガーデンプレイス、東京、2015年)、編著に『土瀝青――場所が揺らす映画』(トポフィル、2014年)、論考に「二種類の幽霊、二種類の霊媒――揺動メディアとしての映画論」(『ART CRITIQUE n. 04』所収、BLUE ART、2014年)など。

 

髙橋耕平 TAKAHASHI Kohei
1977年 京都府生まれ。京都精華大学大学院芸術研究科修士課程修了。 近年の展覧会に「PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭 特別連携プログラム『still moving』」(元崇仁小学校、京都、2015年)、「ほんとの うえの ツクリゴト」(旧本多忠次邸、愛知、2015 年)、「imitator 2」(MART、ダブリン/アイルランド、2014年)、「作家ドラフト2014 高橋耕平『史と詩と私と』」(京都芸術センターギャラリー南、京都、2014年)、「高橋耕平 個展『HARADA-san』」 (Gallery PARC、京都、2013年)など。

映画にとってインターネットとは何か(9) 検索編・補遺

 

 インターネットを扱った映画の分類

 第1回から8回までの考察をもとにして、以下のようにインターネットを扱った映画の「型」を便宜的に分類・整理してみた。今回はこれを踏まえて、まだ紹介できていないいくつかの型を補足的に取り上げることにしよう。

 

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 03 出会い系ドラマ > 悩み相談系

 インターネットを通じた出会いのドラマを描くフィルムは、大別すると、物語の序盤に出会いが訪れるもの(導入系)と、第7回で取り上げたように、出会いを終盤まで引き延ばしたり、最後まで出会えない人びとを描くもの(すれ違い系)があるが、そこにもうひとつ、〈悩み相談系〉とでも言うべき項目を加えておきたい。

 実のところ〈悩み相談系〉に該当する作品はごく僅かであり、とてもひとつのジャンルを形成しているとは言いがたいのだが、わたしが具体的に想定しているのは『電車男』(村上正典、2005年)と『痴漢男』(寺内幸太郎、2005年)の二作である。どちらも匿名掲示板「2ちゃんねる」への書き込みがもとになったフィルムで、映画のみならず、同名の書籍やテレビドラマ、ラジオドラマや漫画など数々の派生作品がつくられている。

 


映画『電車男』 予告篇 - YouTube

 

 『電車男』では、冴えないオタクの男性が電車内で酔っぱらいに絡まれていた女性を救い、お礼としてエルメスのティーカップをプレゼントされる。しかし彼はそれにどう対応して良いか分からず、インターネットの匿名掲示板(「2ちゃんねる」ではなく、架空のサイトに変更されている)に助けを求める。そこで、この話に興味を持ったスレッドの住人たちは、男のことを「電車男」、彼が電車内で知り合った女を「エルメス」と呼び、真面目なアドバイスや冷やかしを交えながら、二人の恋を後押しするのだ。

 本作は、(1)電車男がその日起きた出来事や事件をスレッドに報告し、(2)次にとるべき行動を相談、(3)スレッドの住人がアドバイスやツッコミを入れ、(4)それを踏まえて電車男が行動する、という流れを反復しながら物語が進行していく。スレッドの住人それぞれの素顔や日常生活が描写されることもあるが、原則として彼らが電車男エルメスの関係に直接介入することはない。電車男だけが現実空間と情報空間を結びつける接点となっているのだ。そのため本作におけるインターネットは、漫画などにしばしば見られる「天使と悪魔が論争する」描写を思わせるような、電車男のプライヴェートな心の内を覗ける場所として描かれることになるだろう。その結果、原作となった2ちゃんねるのスレッドには存在した、誰でもアクセスが可能であるが故に当事者にも読まれ得るという危険性や緊張感は、やんわりと覆い隠されている。

 

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 04 伝記ドラマ

 第1回で取り上げた『ソーシャル・ネットワーク』(デヴィッド・フィンチャー、2010年)はFacebookの創始者マーク・ザッカーバーグの半生を描いたフィルムであったが、これ以外にもIT業界の先駆者たちの伝記映画は数多くつくられている。

 例えば1999年には、アップルのスティーヴ・ジョブズマイクロソフトビル・ゲイツの確執をフィクションのドラマとして描いた『バトル・オブ・シリコンバレー』(マ-ティン・バ-ク)がテレビ放映され、2013年には、ジョブズ公認の評伝『スティーブ・ジョブズ』(原題「Steve Jobs: The Exclusive Biography」、ウォルター・アイザクソン、2011年)に基づいた伝記映画『スティーブ・ジョブズ』(ジョシュア・マイケル・スターン)が公開されている。両作共に、自宅ガレージでのアップル社創業、ペプシコーラ事業担当社長の引き抜き、リドリー・スコットによるCM「1984」公開といった「伝説的」エピソードが作中に散りばめられており、その描かれ方の違いを比べてみるのも一興であろう。他にも、フェイクの予告編から発展して長編映画した『iSteve』(ライアン・ペレス、2013年)が無料でウェブ公開されたり、2015年にダニー・ボイルによる新たなジョブズの伝記映画の公開が予定されていたりと、ジョブズの破天荒な人生は現在も格好の題材となり続けている。

 

 

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 1999年にジョー・チャペルが制作した『ザ・ハッカー』は、ハッカー(クラッカー)のケビン・ミトニック逮捕に貢献したコンピュータ・セキュリティ専門家・下村努の活躍を描いたノンフィクション『テイクダウン――若き天才日本人学者vs超大物ハッカー』(下村努、ジョン・マーコフ共著、1996年)を原作とする。一応実際に起きた出来事に基づいているとは言え、『サイバーネット』を思わせる派手な視覚効果やいかにもサスペンス映画といった趣の物語展開が取り入れられており、原作を知らなければ決して伝記映画とは気づかないだろう。

 

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 2010年には、ネット支払い処理会社PaycomやePassportの事業を興した企業家クリストファー・マリックの経験にもとづいて脚本が書かれたコメディ・サスペンス『ミドルメン/アダルト業界でネットを変えた男たち』(ジョージ・ギャロ)が公開された。そのタイトルが示すとおり、アップルやマイクロソフトの華やかな伝説と比べると語られることの少ない、インターネット黎明期のアダルト業界の暗部が描かれているが、プロデューサーとして自ら製作に携わったマリックがePassportの顧客から盗んだ金を制作資金にしたことで批難を浴びるという、皮肉な運命を辿ることになったフィルムである。

 

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 ザッカーバーグにせよジョブズにせよ、彼らが見せる独特な身振りや語り口はIT業界の象徴となっており、時として、パソコン画面やインターネット利用の様子を直接見せることよりも遥かに雄弁にその時代におけるインターネットのイメージを喚起させる。それ故、『ソーシャル・ネットワーク』でザッカーバーグを演じたジェシー・アイゼンバーグや『スティーブ・ジョブズ』でジョブズを演じたアシュトン・ カッチャーにも、一個人の生き様の解釈や再現という域を超えて、ある種の「時代精神」を体現した身振りや語り口が求められることになるだろう。伝記映画および自伝・評伝にもとづいたドラマに限らず、『サベイランス―監視―』(ピーター・ハウイット、2001年)や『マンモス――世界最大のSNSを創った男』(ラーシュ・ヨンソン、2011年)などのフィクション映画にも、ジョブズなどIT業界人を思わせる身振りや語り口の人物たちが登場する。そうした描写からは、正しいか間違っているかはともかくとして、IT業界やインターネットの世界について映画制作者たちが抱く(紋切り型の)イメージの一端を読み取ることができるだろう。

 

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 06 隠喩としてのインターネット

 第3回で取り上げた『アバター』(ジェームズ・キャメロン、2009年)や「マトリックス」三部作(ラリー(ラナ)&アンディ・ウォシャウスキー、1999〜2003年)のように、作中の世界観を、インターネットのありよう(『アバター』なら「セカンドライフ」的な3D仮想世界)の隠喩としてつくりあげたフィルムも存在する。ただし本論では、具体的なインターネット利用の描写がある映画を主な考察対象としているため、これらの作品群について深く踏み込むことはしない。

 

 

 

 また、インターネットを隠喩的に描くと言っても、どこまでをそれに該当するものと看做すかは難しい問題である。例えば押井守による初の実写映画『アヴァロン』(2001年)は近未来のオンラインゲームを描いたフィルムであるが、これを「映画とインターネット」の関係性において捉えることははたして適切だろうか。ARPANETを前身とする狭義の「インターネット」という語の意味を超えて、コンピュータを利用したネットワーク全般を考察対象とするならば、取り扱うべき作品の数は跳ね上がり、その意味も拡散してしまうだろう。『アヴァロン』に関しても、『バイオハザード』(ポール・W・S・アンダーソン、2002年)『オブリビオン』(ジョセフ・コシンスキー、2013年)などと共に「デジタル・ゲーム」の文脈から見るべきかもしれないし、『トロン』(スティーブン・リズバーガー、1982年)や『ヴァーチャル・ウォーズ』(ブレッド・レナード、1992年)などと共に「ヴァーチャル・リアリティ(VR)」の文脈で見たほうが良いのかもしれないが、いずれにせよ、本作をインターネットと関連づけて論じる必要はそれほどないと思われる。

 

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 07 インターネット連動型映画

 これも本論の趣旨とは少々ずれるが、広報活動や製作過程にインターネットが深く関わり合っている映画についても触れておこう。もしかすると「映画とインターネット」と聞いて、大多数の人びとが真っ先に想像するのはこれらの作品群かもしれない。

 テレビ番組やインターネットを利用した広報戦略で成功を収めた『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(ダニエル・マイリック、エドゥアルド・サンチェス、1999年)を先駆けとして、2000年代以降の映画はしばしば本編と連動したウェブサイトやアカウントを開設してきた。例えば本編の内容と関連する海中油田事故を報じた架空のニュース番組YouTubeにアップして話題となった『クローバーフィールド/HAKAISHA』(マット・リーヴス、2008年)や、試写会で観賞中のツイートまでも推奨して口コミ(?)による宣伝効果を狙った『SUPER8/スーパーエイト』(J・J・エイブラムス、2011年)、近年では架空のテーマパークの公式ウェブサイトを立ち上げた『ジュラシック・ワールド』(コリン・トレボロウ、2015年)などが挙げられる。

 

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 映画の製作過程にインターネットを組み込んだフィルムの先駆けは、岩井俊二が2001年に制作した『リリイ・シュシュのすべて』だろう。岩井はインターネット上に誰でも投稿可能な掲示板「Lilyholic」を立ち上げ、他の参加者たちに混ざってパスカルというハンドルネームで『リリイ・シュシュのすべて』の原型となる物語を書き込んでいく。完成したフィルムにはその掲示板に書き込まれた有象無象の言葉がテロップで表示され、実写で撮られたフィクションの世界と文字で書かれたノンフィクションの世界がかさなり合うような、奇妙な映画体験が生み出されることになった。

 

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 2011年にケヴィン・マクドナルドが制作した『LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語』も記憶に新しい。本作は、「2010年7月24日に撮られた映像」という括りで世界各国から公募で集められた8万本・計4500時間もの映像を約95分の長編映画にまとめたもので、現在もYouTubeで全編を観ることができる。また本作から派生した企画として、東日本大震災から一年後の2012年3月11日に撮られた映像を公募・編集した『JAPAN IN A DAY ジャパン イン ア デイ』(フィリップ・マーティン、成田岳)も2012年に公開されている。

 


Life In A Day - YouTube

 

 その他、直接的に作品内容に関わるわけではないが、クラウドファンディングによって資金を集めた映画も多くつくられている。当然のことながら、どんな企画に対しても満足のいく支援がおこなわれるわけではなく、人びとの趣味・趣向、またインターネットという場所独特の価値観に適合した企画を立てる必要があるし、資金調達後も出資者たちの期待に沿うことが求められたり、事前に確約した特典(メールマガジンや関連商品・上映チケットなど)を用意する必要があるなど、クラウドファンディング特有の苦労があるようだ。そうした事柄は、良くも悪くも、完成する映画の内容や出来にも無視できない影響を与えているだろう。

 

 

 ……さて、まだまだ論じることのできていない作品や論点は多々残っていますが、元よりすべてを網羅することはできません。そんなわけで、ひとまずここでひと区切りとして、本連載の第一部「検索編」を終えることにします。少し間を置いて、次回からはより詳細な表現技法や問題点に踏み込んだ「解析編」を始めるつもりで準備を進めていますので、どうぞご期待ください。ここまでおつき合いいただいた読者のみなさま、ありがとうございました。