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揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

和田篤司『アバター』2011年


映画『アバター』予告編

 

地味で引っ込み思案な女子高生の阿武隈川道子は、クラスの中心的存在・妙子の紹介で半ば強引に「アバQ」というSNSに入会させられる。乗り気でなかった道子だが、スロットでレアアイテムを入手して周囲からちやほやされたことを機に、アバQにのめりこむ。ウェブ上の分身=アバターを美しく着飾るため、手段を選ばず課金を重ねた道子は、妙子を蹴落としてクラスの女王に。しかしその行為はエスカレートし、やがて窃盗や殺人といった犯罪行為にまで至ってしまう。

 

山田悠介による同名小説の映画化。ネットを得体の知れない「社会の敵」とみなす平凡な物語だが、本作の美点は、アバQを徹底して携帯電話の画面上にのみ現れるものとして扱うことだ。ウェブ上の出来事が現実空間に直接的な影響を及ぼすわけではなく、イメージ映像を用いた派手な描写で盛り上げようとするのでもなく、小さなインターフェース上の画像が変化する(アバターが着替える)という禁欲的な描写を守ることによって、ただそれだけのために犯罪に手を染める道子や妙子の異様さが際立つのである。

 

アバター

アバター

 

 

バーバラ・ウォン『お別れクラブ -Break Up Club-』2010年


SFIAAFF '11: BREAK UP CLUB Trailer

 

愛するフローラに振られて失意のジョーは、カフェのパソコンで「お別れクラブ」(www.breakupclub.asia)というウェブサイトを見つける。他のカップルを別れさせることと引き換えに恋人と復縁できるという謳い文句に乗せられ、友人とその恋人の名前を書き込むと、現実にフローラとヨリを戻すことができた。ジョーは束の間の幸福を味わうが、迂闊な行動でまたしてもフローラを怒らせてしまう。


タイトルにも冠せられている「お別れクラブ」だが、謎めいたそのサイトの正体やカラクリに踏み込むことはなく、物語上もさほど重要な役割を担っていない。メディア論的な観点からはむしろ、ジョー視点のPOVショットを多用したドキュメンタリー的・リアリティーショー的画面づくりや、バーバラ・ウォン監督が実名で登場するメタフィクション的要素のほうが目立っている。

 

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Break Up Club ( Blu-ray )

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マイルズ・フェルドマン『盗撮ドットコム』2000年

 

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オーディションで集めた女たちを一軒家に住まわせ、無数のカメラを設置して、その日常生活を覗き見るサイトで一儲けを企むフランクとアレックス。しかしカメラの不具合や課金システムの不備などで、計画は思うように進まない。そんななか、奇妙な覆面をかぶった殺人鬼がサイトの参加者を襲い始める。


『マーダー・ネット』(マティアス・ルドゥー、2002年)や『処刑・ドット・コム』(マーク・エヴァンス、2002年)に先駆けて、覗きサイトで起こる犯罪を扱った初期のフィルム。しかし「ブロードバンド・ショッキング・ホラー」という触れ込み(日本販売VHSのコピー)にもかかわらず、事件が起きるのはなぜかサイトの公開前であり、ネットを題材としておきながらライブ配信や公開殺人といった要素をまったく活かせていない。

 

盗撮ドットコム [DVD]

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ミック・ギャリス『バーチャル・ウォーズ3』1998年

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人工知能研究の大家ジョーメッセンジャー博士のもとに、助手のジュリエットがやってくる。病に冒され余命わずかの彼女は、自分の脳をコンピュータにアップロードすれば永遠の命を得られると考え、ジョーの反対を押し切って実験を決行。肉体を持たないデータだけの存在として生まれ変わり、家電やエレベーター、飛行機などコンピュータに接続されたあらゆるものをコントロールして邪魔者の排除に乗り出す。


ネットワーク上を自由に移動してクラッキングを繰り返す幽霊というモチーフは、1993年の『ヴァイラス/インターネットの殺人鬼』(レイチェル・タラレイ、1993年)と共通している。「ユビキタス社会」や「モノのインターネット」(Internet of Things、IoT)が提唱され始めた90年代末頃の時代の空気を反映したフィルムと見做せるだろう。

 

バーチャル・ウォーズ3【字幕版】 [VHS]

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バーチャル・ウォーズ3【日本語吹替版】 [VHS]

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仁同正明『デスブログ 劇場版』2014年


映画『デスブログ 劇場版』予告編

 

乃木坂46主演のホラー映画シリーズ第2弾(第3弾は『杉沢村都市伝説 劇場版』)。中田花奈演じる引っ込み思案な女子高生・瞳は、ブログに片思いの気持ちや日々の出来事を書き込んでいたが、やがてそのブログに取り上げられた人物が次々とバットで殴打される事件が起きる。


タイトルの「デスブログ」は、タレント東原亜希のブログに書き込まれた人物は不幸に遭うという噂話が元ネタだろう。ただし、東原のブログはジンクス的・都市伝説的な意味合いが強いのに対して、映画では具体的なストーカー被害の問題に変更されている。


瞳は「田中」と名乗る人物がブログに繰り返し不穏なコメントを残すことに恐怖し、妹や友人の仕業ではないかと疑心暗鬼に陥る。当事者以外にはその恐怖や深刻さが伝わりづらい、ネット上のストーカー被害の問題を描こうとしているのが感じられるが、瞳の心情の変化が唐突すぎるため、観客にとっては、彼女を怪訝な目で見つめる周囲の人びとのほうが感情移入しやすいという皮肉な結果となっている。

 

デスブログ 劇場版

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デスブログ 劇場版 [DVD]

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ラファエル・フリードマン『WTF』2014年


『WTF』映画オリジナル予告編

 

スケッチと呼ばれる過激なイタズラ動画で知られるフランス人、レミ・ガイヤールが本人役で主演したコメディ。サッカーの出場選手のふりをして試合前の国歌斉唱に参加したり、着ぐるみ姿で警察にちょっかいをかけたりと、定職にもつかずやりたい放題を続けていたガイヤールだったが、恋人にイタズラ動画の制作を止めるよう言われ、平凡なセールスマンとして腑抜けた生活を送ることになる。


映画は上記のようなドラマパートと、普段のイタズラ動画を紹介するパートとで構成されている。ガイヤールの犯罪すれすれな行動にはただでさえ多くの批判が寄せられているが、恋人や仲間たちが迷惑を蒙り、苦悩する姿が描かれるドラマパートが挟まれることで、イタズラの迷惑さが却って強調され、笑うに笑えない重苦しさがつきまとう。『スモッシュ』(2015年)や『ヘイターはお断り!』(2016年)と同様、YouTuber的な美学と映画の美学が容易には相容れぬものであることを証明してしまっている一例である。

 

タイトルは「What the fuck」を意味するネットスラング

 

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フィリップ・ユン『チャットガールズ ~微交少女~』2014年


Super Girls - Heidi 李靜儀 《May We Chat 微交少女 》電影預告

 

1982年の不良少年・少女を描いた香港映画『靚妹仔』(英題「Lonely Fifteen」、デヴィッド・ライ)の娘世代を描いた続編。メッセンジャーアプリ「WeChat」(微信)でゆるやかにつながる少女たちが、仲間の一人ヤンの失踪事件をきっかけに、各自が自覚していた以上の固い絆を確認する。


ヤンを探すワイ・ワイとイー・ジーは、スマホを肌身離さず持ち歩き、テキスト、ボイスメッセージ、電話、スタンプ、写真添付などを巧みに使い分けてやりとりする。We Chatを事件解決の重要なアイテムとするのでもなければ、最新テクノロジーを物珍しげに眺めるのでもなく、対面して会話する、電話をかけるといった日常のありふれた行為と同等の扱いで作中に登場させているのが素晴らしい。特に聴覚障害を抱えているワイ・ワイは、スマホを高度に身体化することによって、言葉を発することができないハンデを感じさせないほどの円滑なコミュニケーションをしてみせるのである。

 

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