生きるためのダンス
2017年3月16日(木)から31日(金)まで、JR東日本が運行する「生きる支援トレイン」で、私が撮影・編集した動画が流れています。振り付け・ダンスはハラサオリさん。
NHK×JR東日本生きる支援キャンペーン 「生きる支援トレイン」
2017年3月16日(木)~31日(金)
ポスターと動画は、以下のウェブサイトで見ることができます。ウェブ動画版「生きるためのダンス」には、田中文久さん(作曲)と角銅真実さん(歌)によるテーマ曲も付いています。
また、3月29日(水)放送の「生きるためのテレビ」でも、私の撮影した映像が素材として使用されます。再放送は4月5日(水)。
生きるためのテレビ あした、会社に行きたくない―“働く自分”と折り合う―
あわせて、作り手からのメッセージがハートネットTVのブログに掲載されています。
【生きるためのテレビ】NHK×JR東日本 「生きるためのダンス」に込められた思い | ハートなブログ | ハートネットTVブログ:NHK
『この世界の片隅に』の風景
前のエントリにも関連するが、映画『この世界の片隅に』の息苦しさは、風景の解像度の高さに因る。「保存再生癖」、「アーカイブ構築癖」とでも言うべきその欲望は、画面に映る風景をその片隅まで、隈なく凝視せよと観客に迫る。
そこに映る風景は、風景のプロが見る風景だ。そしてそれゆえ、その風景は常に日常の風景からは遠ざかり続ける。ほんらい、わたしたちの日常的な場所の経験は、気散じ的な、無自覚で対象化未然の目の利用によって構成されているのであり、その意味では、ここには「日常」も「片隅」もない。焦点の合わないものこそが「片隅」と呼ばれるべきではないか。
『この世界の片隅に』の風景は、民族資料館などの「当時の生活再現ブース」にかぎりなく接近している。「次はこれをご覧ください、これはこのように使うものです、ちなみに当時はこういうこともありました……」主人公の要領の悪さを利用して、登場人物たちがていねいに展示物のキャプションを読み上げてくれる。物語にもまた、逃げ場のない、徹底した対象化の欲望が充満している。
小田原のどか個展「STATUMANIA 彫像建立癖」について
小田原のどか個展「STATUMANIA 彫像建立癖」
会期:2017年3月4日(土)-3月19日 (日)
時間:平日 13:00-20:00/土日祝 12:30-20:00
会場:ARTZONE
企画:京都造形芸術大学ARTZONE
現在開催中の小田原のどか個展「STATUMANIA 彫像建立癖」については、すでに優れた評論が寄せられているので(「爆心地のネオンサイン」 )、ここでは個人的な雑感を記しておくことにする。
展示会場に足を踏み入れて、いまはもう存在しない、しかし写真やネオン管の彫刻として復元された無数の矢印に出迎えられ、まっ先に想像したのは映画『リング』だった。呪いのビデオテープにおさめられた、なにかを指差す不気味な人影。人間が立っているから怖いのではない。指を指しているから怖い。
これを見ろ。目を離すな。忘れないで。覚えていろ……
二階に上がると、今度は黒沢清の『リアル~完全なる首長竜の日~』だ。ガラス管でかたちづくられた台座を支えるケーブル、バンド、配線のようなもの、黒いボックスが剥き出しになっている。『リアル』に登場する、意識を失った者と交信するための「センシング」装置。あるいは『秘密 THE TOP SECRET』に登場するMRI捜査の装置を思わせる光景が、目の前にひろがっていた。
会場全体が、まるでマッドサイエンティストの実験場のようだ。死者を生き返らせる装置ではなく、脳に電気信号かなにかを流して、死んだままの身体だけを叩き起こす装置。人工的なゾンビたちがうごめく風景。
しかしそれは作家個人の趣好などではなく、人類全体の趣好なのだ。展覧会タイトルは「彫像建立癖」だが、もっと広くとらえて、「保存再生癖」、「アーカイブ構築癖」と読み替えてもよいのかもしれない。小田原は少し引いたところから、その欲望が生み出したものを冷静に見つめている。
これを見ろ。目を離すな。忘れないで。覚えていろ……
そう語りかけてくるのは、死者ではなく生者であった。おそろしいのは幽霊ではなく、死者に鞭打ち動かし続けようとする、生者たちの情念であったのだ。記憶と記録は常に不完全でしか有り得ず、それゆえ、その欲望はどこまでも、いつまでもわたしたちにつきまとう。しかしつきまとっているのもまた、わたしたち自身である。
(念のため、上記のおどろおどろしい話は、なんでもホラー的に見てしまう筆者の傾向が多分に反映された結果であって、展示自体は決して観客を脅かすようなものではなく、洗練された、落ち着いた空間だったことを記しておく。)
shifter uprising
映像作家のワタナベカズキさんとudocogさん、そして私の3人で2015年に結成した映像制作ユニット「shifter」の初上映イベントを行ないます。shifterとして制作した全作品に加えて、2015年の拙作『And the Hollow Ship Sails On』の圧縮・編集バージョン(flicker)も上映予定。
トークゲストには西島大介さんと中田クルミさん、映画研究者・批評家の渡邉大輔さんがいらっしゃいます。2月11日(土)と12日(日)の2日間、どうぞご覧ください。
shifter uprising
日時|2017年2月11日(土)、2月12日(日)14:00-
会場|VANDALISM
料金|前売 ¥1,500/当日 ¥1,800
予約・問い合わせ|miyokawatachi(at)yahoo.co.jp
ウェブ|http://elegirl.net/shifter/
ゲスト
11日(土):中田クルミ(女優・モデル)、DJまほうつかい(西島大介)(音楽家・漫画家)
12日(日):渡邉大輔(映画研究者・批評家)
上映作品
『PARENTAL ADVISORY EXPLICIT COMMUNICATION』(3分、2015年)
『チェーンブレイカー』(30分、2015年)
「udocorg 監督作品」(10分以内の短編の上映を予定)
『And the Hollow Ship Sails On (flicker)』(10分、2016年)
『レイニー&アイロニーの少女コレクション』(18分、2015年)
『異類婚のエスノグラフィー』(17分、2016年)
ウェブサイトの更新とステイトメント
久々にウェブサイトを更新しました。
qspds996 | 佐々木友輔|Sasaki Yusuke|Web Page
これまでずっと「自分は一体何者で、何がしたいのか」を簡潔に説明する言葉を持てずに困っていたのですが、今回、新たに「ステイトメント」のページを設けてみました。これによって、作品や研究に関心を持って下さる方が少しでも増えると良いなと思います。
わたしの制作と研究の見取り図は、“揺動”の三分類として記述することができる。
(1)揺らす
20世紀を代表するメディアである映画は、人間の“見ること”にいかなる影響を与えてきたのか。自明視されている制度や慣習を揺さぶることで映画の盲域を探り出し、これまで記録されて来なかったイメージ、あるいは記録不可能なイメージの存在に意識を向ける。
具体的には、映画や写真が“病理としての郊外”観の形成に加担してきたことを批判する展覧会企画「floating view “郊外”からうまれるアート」(2011)およびウェブ連載『Camera-Eye Myth/郊外映画の風景論』(2013)、カメラを持ち込むことが不可能な場所であるウェブ空間を映画がいかに表象できるのかを問うた短編映画『落ちた影/Drop Shadow』(2015)などが挙げられる。(2)揺れる
手持ちカメラによる手ぶれ映像をはじめとした“揺れる”イメージに着目し、映画史を「揺動メディア」としての映画史として再構成する。
実験映画やビデオアート、70年代の風景映画論争を引き継ぎつつ、揺動を組み込んだ新ドキュメンタリー理論〈場所映画〉を構築し、従来の映画が見落としてきた場所のイメージに触れることを目指す。その試みは「映画による場所論」と題したシリーズの中で実践され、これまでに、小説家・長塚節が記した茨城の風景を百年後の風景と重ね合わせる長編映画『土瀝青 asphalt』(2013)、沖縄戦の米軍進行ルートの現在をトレースする中編映画『TRAILer』(2016)などを制作・公開している。(3)揺らぐ
人為的か否かを問わず、従来の制度や慣習が揺らげば、人間は依って立つべき大地を失い、時には生死にも関わる危険な状態に追いやられる。
足場なき場所でいかに安定をつくりだし、生命を維持するか。それは揺動メディアとしての映画制作の要であるのみならず、物語上の主題ともしてきたものである。例えば、秋葉原の通り魔事件の加害者が自分であったかもしれないという不安に苛まれる長編映画『夢ばかり、眠りはない』(2010)、震災と原発事故を機に根拠なき噂やデマに汚染された“空気”を可視化する長編映画『アトモスフィア』(2011)などが挙げられる。また現在は、CG・VFXの全面化以後のハリウッド映画に散見される「復路の神話」のモチーフに関するリサーチを進めている。
2016年に見た新作映画ベスト10
今年は1月〜2月のメモをなくして記憶喪失状態になっており、見た映画の正確な本数が分からない。3月以降のメモを確認すると新作/旧作と劇場/自宅合わせて124本見ているようで、去年の1/3〜半分以下になってしまいました。環境が激変したので仕方ないのかもしれないけれど、来年はもう少し見たい。
とはいえ今年は優れた新作を数多く見ることができました(特にハリウッド大作が充実しすぎていて、それ以外をベストに挙げる余地がない)。以下に挙げた10作品は、『死霊館/エンフィールド事件』と『ちはやふる』を除き、先日の『TRAILer』上映で述べた「復路の映画」ばかり。この仮説については、来年前半にまとまった論を公開する予定です。21世紀のハリウッド映画はこれ抜きでは語れない!それぐらい決定的なものを書きたいと思っています。
(『ローグ・ワン』などをまだ見ていないので、もしかしたら追記・修正するかも。)
(1) Batman v Superman: Dawn of Justice
(7) Fantastic Beasts and Where to Find Them
(8) Teenage Mutant Ninja Turtles 2
12月11日(日)佐々木友輔 新作上映『TRAILer』
映画制作を通じて人間の生きる場所と風景の問題に取り組む映像作家・佐々木友輔による新作上映。沖縄を舞台として、映像とテキスト、声と音楽が多層的な場所のイメージを形成する。
上映後は、朗読を担当した詩人のカニエ・ナハ氏、朗読脚本を執筆した美術批評家の土屋誠一氏をゲストに迎えてのトークイベントを開催。また、佐々木が高校2年時に制作したデビュー作『手紙』の特別上映もおこないます。
日時:2016年12月11日(日)
16:00『手紙』 18:00『TRAILer』(各回入替制)
料金:一般700円、イメージフォーラム会員500円、2回券1000円
『TRAILer』50分、ビデオ、2016年
朗読:カニエ・ナハ、朗読脚本:土屋誠一、音楽:田中文久
1945年の春。米軍が読谷村・渡具知から沖縄本島に上陸し、同年6月に摩文仁の丘で日本軍の組織的抵抗が終了した。2015年の冬。私は渡具知ビーチと沖縄平和祈念公園を検索し、Google Mapだけを頼りに、2点を結ぶ撮影の旅に出た──。初めて訪れた土地のイメージと、その土地に抱いてきたイメージの距離を探る〈場所映画〉の最新作。
『手紙』72分、ビデオ、2002年 制作:佐々木友輔、音楽:稲垣雅俊 ほぼ全編を携帯電話のメール送受信のみで構成した佐々木友輔の長編デビュー作。書いては消しを繰り返し、届かなかった言葉と届いた言葉、相手からの返信を待ち焦がれる指先だけで描く「人間ドラマ」。イメージフォーラム・フェスティバル2003一般公募部門受賞。
佐々木友輔(ささき・ゆうすけ)
1985年兵庫県生まれ。映像作家、企画者。近年の上映・展示に「反戦 来るべき戦争に抗うために」(SNOW Contemporary、2014年)、「第7回恵比寿映像祭」(恵比寿ガーデンプレイス、2015年)、「記述の技術 Art of Description」(ARTZONE、2016年)など。主な著作に『floating view “郊外”からうまれるアート』(編著、トポフィル、2011年)、『土瀝青――場所が揺らす映画』(編著、トポフィル、2014年)など。
カニエ・ナハ
1980年神奈川県生まれ。詩人。2010年「ユリイカの新人」としてデビュー。2015年エルスール財団新人賞〈現代詩部門〉。2016年、詩集『用意された食卓』(私家版、2015年/青土社、2016年)で第21回中原中也賞。新作詩集は『馬引く男』(私家版、2016年)。装幀家として詩集の装幀も手掛けている。装幀/デザインの近作に萩野なつみ『遠葬』(思潮社、2016年)、永方佑樹『√3』(思潮社、2016年)など。
土屋誠一(つちや・せいいち)
1975年、神奈川県生まれ。美術批評家、沖縄県立芸術大学准教授。著書(共著)に『実験場 1950s』(東京国立近代美術館、2012年)、『現代アートの巨匠』(美術出版社、2013年)、『拡張する戦後美術』(小学館、2015年)など。