Netflixで見ることができる(できた)ネット関連ドキュメンタリー
Netflixの魅力の一つは、優れたドキュメンタリーが数多くエントリーされていること。一例として、個人的なリサーチの中で見つけたネット/IT関連のドキュメンタリーのリストを掲載しておきます。いつの間にか公開終了して見れなくなっているものも多いので、気になる作品があればすぐに見ておくことをお勧めします。(2018.5.18)
- ポール・セン『スティーブ・ジョブズ1995~失われたインタビュー~』2013年
- ジョー・ピスカテラ『#シカゴガール: ソーシャルネットワークが起こした奇跡』2013年
- ブライアン・ナッペンバーガー『インターネットの申し子:天才アーロン・シュウォルツの軌跡』2014年
- ルイス・ロペス、クレイ・トゥイール『プリント・ザ・レジェンド』2014年
- ローラ・ポイトラス『シチズンフォー スノーデンの暴露』2014年
- ジョナソン・ナーダッチ『ラブ・ミー』2014年
- サマンサ・フーターマン、ライアン・ミヤモト『双子物語』2015年
- グレッグ・バーカー『ザ・スレッド』2015年
- アレックス・ウィンター『ディープ・ウェブ』2015年
- ジョセフ・トスコーニ『セクスティング中毒』2015年
- ブレット・ウェイナー『ジャノスキアンズの裏話とホラ話』2015年
- デヴィッド・ファリアー、ディラン・リーヴ『くすぐり』2016年
- ハバナ・マーキング『アシュレイ・マディソン:セックスと嘘とサイバー攻撃』2016年
- ヴェルナー・ヘルツォーク『LO:インターネットの始まり』2016年
- ナネット・バースタイン『ジョン・マカフィー:危険な大物』2016年
- ボニー・コーエン、ジョン・シェンク『オードリーとデイジー』2016年
- アマンダ・ミッチェリ『ラスベガス・ベビー』2016年
- ジェイソン・コーエン『シリコン・カウボーイズ』2016年
- ローラ・ポイトラス『リスク:ウィキリークスの真実』2017年
- クリストファー・カヌーチアリ『仮想通貨 ビットコイン』2017年
- メアリー・マジオ『私はジェーン・ドウ:立ち上がる母と娘』2017年
ポール・セン『スティーブ・ジョブズ1995~失われたインタビュー~』2013年
スティーブ・ジョブズの1995年のインタビュー映像を彼の死後に再編集した作品。聞き手はロバート・X・クリンジリー。
同インタビューはテレビ番組『The Triumph of the Nerds : The Rise of Accidental Empires』に一部が用いられたが、オリジナルの映像素材は長らく行方不明になっており、後に偶然ガレージからコピーが発見されて日の目をみることになった。こうした経緯もあって、余計な演出や資料映像は挟まずにひたすらジョブズの語る姿を映し出すストイックな構成となっている。
当時のジョブズは自身が招いたジョン・スカリーにアップル社を追われ、1985年に創業した「NeXT」のCEOとして巻き返しを図っていた。
10歳でのコンピュータ体験、スティーブ・ウォズニアックとの出会い、電話ハッキングデバイス「ブルーボックス」の開発、Apple IやApple IIの開発をめぐる伝説的なエピソードがジョブズ自身の口から語られ、さらにNeXTの現状と今後の展望が述べられる。アップル社に復帰して、iMacやiPod、iPhoneの開発で再び栄光を浴びる前夜のジョブズを見ることができる。
ジョー・ピスカテラ『#シカゴガール: ソーシャルネットワークが起こした奇跡』2013年
「ラップトップパソコンでシリア革命を進めている」と語る、シカゴ在住の若き活動家アラー・ベサートニー(Ala'a Basatneh)を追ったドキュメンタリー。
ベサートニーは1992年にダマスカスに生まれ、家族と共にアメリカへ移住。2011年にシリア騒乱が勃発すると、YouTubeやFacebookなどのSNSを通じて現地の情報を収集し、英訳して世界中に発信。自宅の寝室に居ながらにして反体制派の支援を続けている。
https://www.netflix.com/title/80045625
(※公開終了)
ブライアン・ナッペンバーガー『インターネットの申し子:天才アーロン・シュウォルツの軌跡』2014年
情報の自由のために戦ったアクティビスト/ハクティビスト、アーロン・シュウォルツ(スワーツ)の人生を振り返る。
1996年生まれのシュウォルツは幼少期から神童と評判で、将来有望なウェブサイト制作者に与えられる「ArsDigita」賞を受賞。RSS(ニュースサイトやブログなどの更新情報を配信するためのフォーマット)構想やクリエイティブ・コモンズ(CC)の設立に関わり、ソーシャルニュースサイトredditの共同開発者にもなった。
その後、シュウォルツは情報が万人に開かれることを理想に掲げ、課金制となっていた「PACER」(裁判の電子記録をする公開システム)や「JSTOR」(科学学術論文の電子図書館)のデータを大量にダウンロードして一般公開したり、オンライン海賊行為防止法案「SOPA」の反対運動を展開するなど精力的な活動を展開するが、その法を犯すことも辞さない行動は当然FBIや検察の捜査対象となり、2011年に逮捕。2年後に自殺し、政府によって殺されたも同然だとの声が上がった。
映画では、家族が撮影したホームビデオやメディア出演時の記録など豊富な映像資料、関係者のインタビューなどを構成してシュウォルツの人物像を紹介すると共に、彼の軌跡を通じて2000年代から2010年代のネットの歴史を浮かび上がらせることが試みられている。
https://www.netflix.com/title/70299288
(※公開終了)
ルイス・ロペス、クレイ・トゥイール『プリント・ザ・レジェンド』2014年
卓上3Dプリンターの開発販売に乗り出したスタートアップ企業に密着したドキュメンタリー。
いち早くメーカーボット社(MaakerBot)を立ち上げて時代の寵児となるも、オープンソースからクローズドソースへの路線変更で嫌われ者になったブリー・ペティス、フォームラボ(Formlabs)を立ち上げてクラウドファンディングで資金を得るが、出荷の延期や大手企業からの訴訟など数多くのトラブルに見舞われるマックス・ロボフスキー、3Dプリンターで銃を作成して物議を醸した非営利団体ディフェンス・ディストリビューテッドのコーディ・ウィルソンの三名への取材を軸として、ネット世代が現実空間のモノ作りに参入したメイカーズムーブメントの熱狂を捉えている。『WIRED』の元編集長で、『ロングテール』『フリー』『メイカーズ』といった著作で知られるクリス・アンダーソンも登場。
ローラ・ポイトラス『シチズンフォー スノーデンの暴露』2014年
元NSA・CIA職員のエドワード・スノーデンがアメリカ政府による国民監視の実態を告発した「スノーデン事件」を間近で見つめたドキュメンタリー。アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門を受賞。
監督のローラ・ポイトラスは、2013年にまだ知られざる存在であったスノーデンから匿名のメール(このとき彼は「シチズンフォー」と名乗っていた)を受け取り、ジャーナリストのグレン・グリーンウォルドと共に香港のホテルでスノーデンと対面して独占インタビューを敢行。マスコミに機密情報を提供し、実名での内部告発の準備を進める過程を生々しく記録している。
ジョナソン・ナーダッチ『ラブ・ミー』2014年
国際的な婚活を支援する出会い系サイトにまつわる悲喜交々。
離婚や死別など様々な理由でパートナーを求めるアメリカ人男性が、サイトで知り合ったロシア人女性やウクライナ人女性にはるばる会いに行く。孤独を抱える男性の表情を捉えたクローズアップと、サイトに掲載されている女性のプロフィール写真の虚構性が対比的に描かれる序盤から、女性たちの生活事情や内心が露わになっていく中盤を経て、幸福な結婚に至る者、何の進展もなく終わる者、式を挙げた直後に別れを切り出される者など三者三様の結末が描かれる。
https://www.netflix.com/title/80037204
(※公開終了)
サマンサ・フーターマン、ライアン・ミヤモト『双子物語』2015年
2012年、フランス在住のデザイナー・アナイスは友人から、YouTubeの動画に彼女のそっくりさんが写っていると聞かされる。調べてみると、その人物はロサンゼルス在住の女優サマンサ。共に韓国で生まれて養子に出され、誕生日も同じであることが判明する。
アナースはサマンサにFacebookでメッセージを送り、すぐさま意気投合。実の母親と思われる人物と会うことはできなかったが、DNA鑑定の結果、アナースとサマンサは一卵性双生児であることが確定。二人は家族ぐるみでの付き合いを始め、親交を深めていく。
映画はサマンサ自身が監督をつとめており(ライアン・ミヤモトとの共同監督)、実際の動画チャットの録画やチャットログをふんだんに使用。出来事を事後的に顧みるのではなく、観客も姉妹の再会の瞬間に立ち会っているかのような感覚を味わうことができる。
グレッグ・バーカー『ザ・スレッド』2015年
2013年4月15日のボストンマラソン爆弾テロ事件を題材として、犯行自体の政治的意図や背景ではなく、事件をめぐる報道のありかたに注目したドキュメンタリー。
テロ事件の様子は現場に居合わせた人びとがYouTubeに動画をアップすることで瞬く間に拡散し、ソーシャルニュースサイト「reddit」(レディット)やTwitter上では素人探偵による犯人探しが加熱した。オールドメディアの報道をしのぐ速報性や集合知による情報収集が注目される一方で、複数の人物が冤罪で槍玉に挙げられ、自殺者も出るなど、深刻な事実誤認やデマの問題も浮上した。同作では、実際にアップされた動画やSNSへの書き込み、犯人探しに関わった人びとへのインタビューを構成し、ネット時代の報道のありかたを批判的に検証している。
https://www.netflix.com/title/80077403
(※公開終了)
アレックス・ウィンター『ディープ・ウェブ』2015年
一般的な検索エンジンにはヒットしないディープウェブ(深層ウェブ)の世界を扱ったドキュメンタリー。『Downloaded』(2012年)『スモッシュ』(2014年)のアレックス・ウィンターが監督し、キアヌ・リーヴスがナレーションをつとめる。
表層ウェブの数千倍の規模を誇ると言われるディープウェブの中でも、Torネットワークなどを用いて匿名性を高めたアドレス空間は「ダークウェブ」や「ダークネット」と呼ばれており、ビットコイン取引による偽造書類や麻薬の密売、マネーロンダリング、殺人依頼など、あらゆる犯罪の温床となっているという。
映画では、違法薬物を中心とする巨大な闇市場「シルクロード」の管理者とされる人物、ロス・ウィリアム・ウルブリヒトが2013年に逮捕された事件を取り上げている。シルクロードの管理者はドレッド・パイレーツ・ロバート(DPR)と名乗り、サイトの運営は自由至上主義を掲げる政治的な運動でもあった。アレックス・ウィンターはDPRの思想やウルブリヒトの生い立ちを追い、彼の冤罪を主張する家族や友人たちにインタビューすると共に、検察側の証拠入手の手段を問題視。DPRに対して一定の共感を示す内容になっている。
ジョセフ・トスコーニ『セクスティング中毒』2015年
SNSやチャット、メール等を利用して性的なテキストや画像を送受信する行為「セクスティング」(sexting、sexとtextingの混成語)を扱ったドキュメンタリー。紀元前3万年前まで遡り、テクノロジーの進歩と並走する性的描写の歴史を追うと共に、セクスティング経験者やポルノ女優、心理学者やメディア研究者等へのインタビューを通じて、セクスティングのメリットとデメリットを両論併記的に取り上げる。
なお同作によれば、セクスティングの語が初めて登場したのは2004年のカナダの新聞記事。また最新の事例として、送信した写真や動画が一定時間で消滅する「スナップチャット」(Snapchat)、GPSを利用したマッチング・出会い系アプリ「ティンダー」(Tinder)が紹介される。
ブレット・ウェイナー『ジャノスキアンズの裏話とホラ話』2015年
YouTubeでブレイクし、音楽活動もおこなうオーストラリアのコメディグループ「ザ・ジャノスキアンズ」を追った(フェイク)ドキュメンタリー。
虚実を織り交ぜたユーモラスなメンバー紹介(ただし既存ファン向けのネタが多く、少々ハイコンテクスト)を挟みつつ、ロンドンのウェンブリー・アリーナで大規模なライブを開催するまでを描く。終始際どい下ネタや悪ふざけを連発するものの、ステージに立ち歌うザ・ジャノスキアンズの姿は正統派アイドルさながらで、日本のユーチューバーのイメージからは大きくかけ離れている。
デヴィッド・ファリアー、ディラン・リーヴ『くすぐり』2016年
※過去記事で言及。
ハバナ・マーキング『アシュレイ・マディソン:セックスと嘘とサイバー攻撃』2016年
大手出会い系サイト、アシュレイ・マディソンの個人情報流出事件を取り上げ、その背景と問題に踏み込む。
同サイトは既婚者を主要なターゲットとし、「人生は一度だけ。不倫しましょう」という挑発的なコピーで話題を集めたが、2015年にサイトの閉鎖を求めるハッカー集団・インパクトチームによって登録会員の8割に当たる約3200万人分の個人情報が盗取・公開され、自殺者が出るほどの大騒動となった。
映画では、2007年にCEOに就任したノエル・ビダーマンのビジネス戦略を追い、女性会員を偽るボット(fembot)の導入、ポルノ映画への参入や売春との関わりの隠蔽によるカジュアルなイメージづくり、財務統計の虚偽といった数多くの問題が指摘されている。
ヴェルナー・ヘルツォーク『LO:インターネットの始まり』2016年
映画監督ヴェルナー・ヘルツォークが自らナレーターとインタビュアーをつとめ、インターネットの誕生と歴史を辿るドキュメンタリー。
「ネットの夜明け」「ネットの栄光」「暗黒面」「ネットのない生活」「ネットの終わり」「地上の侵入者」「火星のインターネット」「人工知能」「私のインターネット」「未来」の十章で構成される。
太陽フレアによる電波障害のような宇宙規模のリスクを取り上げたと思えば、交通事故現場の写真を拡散するネットユーザーの悪意を問題視し、人工知能やロボット産業、火星でのネット利用といった最先端技術を紹介したかと思えば、電磁波過敏症により電波の届かない土地での生活を余儀なくされる人々に取材したりと、縦横無尽にスケールを変化させながら、ネットの可能性と課題を多面的に描き出していく。エルヴィスの曲でも電波顕微鏡の障害になるのかと尋ねたり、セキリュティー・アナリストにコーヒー漬けで深夜作業をするのかと尋ねるなど、ヘルツォークのとぼけた質問やコメントが味わい深い。
原題の「Lo and Behold」は「驚いたことに」を意味し、1969年10月29日にカリフォルニア大学とスタンフォード研究所が世界初のパケット通信ネットワーク実験をおこなった際、「log」と送信するはずが「lo」の時点でコンピュータがクラッシュしたエピソードから採られている。
ナネット・バースタイン『ジョン・マカフィー:危険な大物』2016年
コンピュータセキュリティソフト開発・販売会社の最大手「マカフィー」(McAfee)の創業者、ジョン・マカフィーの闇に迫る。
マカフィーは1987年にいち早くアンチウィルスソフトを売り出して財をなすが、1994年に退職。コロラドの山中でヨガに傾倒した後、中央アメリカのベリーズに移住し、無数の恋人と愛犬とボディーガードに囲まれた奔放な生活を送る。2012年、しばしば噂される被害妄想癖が関係しているのか、マカフィーはトラブルのあった隣人を殺害した容疑をかけられて国外逃亡。アメリカに舞い戻って大統領選に出馬するなど、現在もメディアに話題を提供し続けている。
監督のナネット・バースタインは、マカフィーが過去に起こした数々の事件のツケを払うこともなく、コンピュータセキュリティーの権威として復権を果たしつつあることを問題視。本人への直接インタビューは拒否されたものの、長いメールのやりとりや関係者への取材をもとに、事件の事実関係やマカフィーの人物像を検証していく。
ナネットへのメールの末尾に記された「私はいつものようにメディアを翻弄している。君は私の最高傑作だ」という言葉が、一見行き当たりばったりのようだが、実は巧妙かつ周到な策略を張り巡らせているマカフィーの底知れなさを感じさせる。
ボニー・コーエン、ジョン・シェンク『オードリーとデイジー』2016年
ネットを媒介としたセカンドレイプ被害にあった二人の少女。オードリーは性的暴行を受ける様子を撮影され、その動画を学校中に拡散されたことを苦にして自殺。一方のデイジーは、加害者の祖父が権力者だったためにレイプ事件をもみ消された挙句、SNSでの誹謗中傷、自宅への放火や母親の失職といった嫌がらせを受け続けた。デイジーは自分と似た境遇のオードリーの存在を知り、その家族と対面する。
一部の証言者はプライバシー保護のため、インタビュー音声をアニメーションの人物に喋らせる「アニメーション・ドキュメンタリー」の手法が用いられている。
アマンダ・ミッチェリ『ラスベガス・ベビー』2016年
保険適用外の高額不妊治療を手がける医療機関シェア・クリニックと、妊活に励む個人やカップルに取材したドキュメンタリー。シェア・クリニックはYouTube上でコンテストを開催し、妊娠への想いを語るもっとも優れた動画の投稿主に、無料での体外受精の権利を授与する活動を展開。賛否両論を巻き起こした。
ジェイソン・コーエン『シリコン・カウボーイズ』2016年
90年代にはパソコンメーカー最大手の座についていた企業コンパックの歴史を振り返る。
1982年にロッド・キャニオン、ビル・マート、ジム・ハリスの三名が共同設立したコンパックは、当時の市場を独占していたIBMの牙城を崩すべく「コンパック・ポータブル」を開発。IBM PCとの互換性と持ち運び可能なコンパクトさを兼ね備えたこのマシンが大ヒット商品となり、コンパックの事業規模は一気に拡大していく。
ローラ・ポイトラス『リスク:ウィキリークスの真実』2017年
内部告発サイト「ウィキリークス」の成立過程と、その創始者ジュリアン・アサンジの人物像に迫るサスペンス映画『フィフス・エステート/世界から狙われた男』(ビル・コンドン、2013年)は、製作中からアサンジ本人とウィキリークスに「事実を歪曲している」と批判され、公開の中止を求められた。アサンジとウィキリークスは、2017年に公開されたドキュメンタリー『リスク:ウィキリークスの真実』に対しても激しい批判を加え、公開中止を要請している。
興味深いのは、このドキュメンタリーが『フィフス・エステート』と驚くほど似通った物語展開を見せることだ。
監督のローラ・ポイトラスは2010年から2016年までアサンジに密着取材し、ウィキリークスの歴史を間近で見つめ続けてきた。当初のローラは、アサンジが米国務省に電話をかけて外交公電の流出を警告する場面に立ち会うなど、確かな信頼を感じさせる距離感で撮影をしているが、性的暴行容疑に対するアサンジの釈明辺りから次第に溝が生じ、両者の心的距離に比例するように、カメラポジションも遠ざかっていく。
ついには、アサンジがローラに対して述べたという映画への懸念──「我々の仲違いは見せない約束だろう」「試写の後、相互の妥協点を探すつもりだ」「現時点で本作は私の自由への脅威であり、そういう認識で扱う」──が紹介され、映画は締めくくられる。
クリストファー・カヌーチアリ『仮想通貨 ビットコイン』2017年
仮想通貨(暗号通貨)ビットコインを題材としたドキュメンタリー。
サブプライムローン問題を発端とする世界金融危機の反省から、従来の金融システムや政府の介入を受けないオルタナティブな経済活動を実現すべく立ち上げられたビットコインは急成長を遂げる。しかし闇サイト「シルクロード」の摘発や、ビットコイン両替所「ビットインスタント」の運営者チャーリー・シュレムの資金洗浄の疑いによる逮捕など、ビットコインは次第に規制・認可の対象となり、従来の金融システムに取り込まれていく。
映画では、そうした政治的介入に抵抗し、ビットコイン本来の思想と理想を守ろうとする関係者たちのインタビューを軸として、ニュース映像やオンライン記事を散りばめつつ、ビットコインの歴史と現状、今後の課題を明らかにする。
メアリー・マジオ『私はジェーン・ドウ:立ち上がる母と娘』2017年
アメリカの大手オンライン広告サイト「バックページ」(backpage.com)が性的人身売買に加担していることを告発する。
同サイトの「エスコート(同伴者)募集」広告は、実質的に児童売春の温床となっているにもかかわらず、経営陣は有効な対策を打たず、むしろその利益を積極的に享受していると批判を受けている。しかしバックページは「表現の自由」を主張し、憲法修正第1条や通信品位法(CDA)を盾にして多くの訴訟で勝利を収めてきた。GoogleやFacebookなどの大企業もバックページ擁護に回り、法による規制に反対している。
映画では、誘拐や売春の被害にあった多くの人びとを代弁して「わたしはジェーン・ドゥー(身元不明を表す名前)」と声を上げる被害者とその家族、弁護士らの活動紹介やインタビューを通して、バックページの問題に目を向けるよう視聴者に呼びかけている。