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ネット映画の側面から見た『ちはやふる -結び-』(小泉徳宏、2018年)


「ちはやふる -結び-」予告

 

末次由紀による人気漫画の実写映画化第3作。この10年の日本映画の到達点という感じで素晴らしかった。大げさでなく、ついにデジタルシネマに固有な文体が発見された!と言いたくなるような高揚感を味わった。

 

……と、その根拠を丁寧に書いていく余裕が今はないので、ひとまず備忘録として「ネット映画」の側面から見た『ちはやふる -結び-』について記しておく。


音楽を担当した横山克ツイッターで「「緊張感をコントロールする」という事を試みています。試合の緊張感で心拍数が上がったり下がったりする効果を劇場でこそ出せる低い音で狙ってます」と語っているように(https://twitter.com/masaruyokoyama/status/974885521565532160)、本作の魅力は映画/競技かるたのリズムをつくりだすためにこそ、すべての音とイメージが動員されている点にある。


美しい声を持つキャストの起用(広瀬すず新田真剣佑野村周平上白石萌音松岡茉優……)、説明台詞でも耳に馴染む言葉選び、観衆のざわつきやカルタの跳ねる音から無音への切り替え、空間的な広がりのあるBGMとそれに対応する光に満ちた画面設計、スローモーションやアニメーションの大胆な導入……といった主要素はもちろんのこと、競技を配信するウェブ動画上に視聴者のコメントが流れていくショットも見逃せない。各自が内面を吐露するナレーションの速度、百人一首の歌が詠み上げられる速度に加え、映画の観客が文字を追うことによってうまれる速度までもが導入され、映画のリズムチェンジに貢献している。

 

ライバル同士である太一と新がLINEでメッセージを交換するシーンでも、それまで多くの音や声に満たされていた世界が静寂に包まれ、まさに「無言の会話」が繰り広げられる。観客にテキストを読ませることが、映画のリズムにアクセントをつけることにつながっているのである。

 

従来のネット描写において、スクリーン上のテキストを読ませることは、意図せぬ冗長さを招いたり、観客の視聴負担を増大させるなど、負の側面が目立つことのほうが多かった。しかし『ちはやふる -結び-』は、そうした遅延を逆手にとってリズムチェンジに応用し、グルーブを生み出す手法を発明してみせたのだ。

 

映画『ちはやふる』完全本 ―上の句・下の句・結び―

映画『ちはやふる』完全本 ―上の句・下の句・結び―