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揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

サイモン・ヴァーホーヴェン『デッド・フレンド・リクエスト』2016年


Friend Request Official International Trailer #1 (2016) - Alycia Debnam-Carey Thriller HD

 

仲の良いルームメイトと恋人に恵まれ、SNS(機能的にもデザイン的にもFacebookがモデルと見て良いだろう)のフレンドは800人以上という満ち足りた大学生活を送るローラ。ある日彼女は、孤独な同級生マリーナからフレンド申請を受ける。マリーナのアカウントはフレンド数0人、モノクロの魔術的なイラストやアニメーションが数多く投稿された不気味なものだったが、ローラは気軽な気持ちで承認。これを喜んだマリーナは、オンラインでもオフラインでもしつこく付きまとってくるようになる。煩わしく感じたローラがマリーナをフレンドから外すと、マリーナは首を吊って自殺してしまう。


そしてこの日以降、ローラの周囲で奇妙な事件が多発する。友人が次々と悲惨な死を遂げ、その様子を記録した動画がローラのアカウントから勝手に投稿されるのだ。その動画はなぜか削除することができず、SNSを退会することもできない。ローラは友人からも警察からも疑われ、孤立していく。


『デッド・フレンド・リクエスト』は、ネット特有の事象と「恐怖」の演出を結びつける手つきの巧みさと繊細さにおいて、数多のネット映画のなかで頭一つ抜きん出ている。


例えば映画の冒頭、過去にSNSに投稿された記事や画像を辿っていく体で、主人公ローラの人となりが提示される。ネット映画としての特色を打ち出しつつ、登場人物の紹介を効率的・経済的に済ませてしまう巧妙な導入だが、それだけではない。後々観客は、ここでのSNSを見つめる視線が、ローラの投稿記事や画像を熱心にチェックしていたマリーナの視線とも重ね合わせられていることに気づくのである。


大学の講義で、教授がネット中毒もしくはネット依存の問題を語るシーンが序盤に置かれているのも巧い。恐ろしい事件が起きてもSNSを見続けるローラは、彼女の主観ではマリーナの呪いを解くためにそうしているのだが、周囲からすれば、マリーナの死でおかしくなったか、それこそネット依存に陥っているようにしか見えない。覗き続けると異世界と交信できると言われる黒鏡(マリーナが儀式に使用)、パソコンやスマホの画面、その他随所に登場する「鏡」のモチーフが、境界の向こう側を見つめ、魅入られていく人間の姿を映し出している。


そして何より重要なのは、本作の「恐怖」が、フレンド申請を承認したローラ自身に危害が及ぶことへの恐怖ではなく、彼女と関わりのあった周囲の人間に危害が及ぶことによって生じている点だろう。現実のネット上の炎上案件でも、真に恐ろしいのは、自分自身が誹謗中傷を受けることではなく、家族や友人、職場にまで被害が及ぶせいで、彼らとの関係がこじれたり、疎遠になってしまうことである。たとえ自分に非がなかったとしても、周囲から疑いの目で見られたり、責められたりするうちに、何か自分に問題や原因があったのではないかという気がしてくる。ネットはそうした現代型の「ガスライティング」が横行する場所であり、本作はその恐ろしさをうまく捉えている。