インパクトのある映像制作入門書ベスト10
※Twitterに書いたものを少し加筆修正して掲載。
訳あって、この百年間に日本で出版された映画制作入門書をひたすら読み漁っています(とは言え、国会図書館などを利用してもアクセスできるのは数百冊です)。 本のすべてを隈無く読み込んでいるわけではなく、主にまえがきと、カメラの構え方およびカメラワークの項目を重点的に調べ、手持ちカメラと三脚がどのように扱われてきたかの変遷を追っているのですが、他にも面白そうなポイントがたくさんあって、時間があればずっと調べていたい、楽しい作業です。本ごとに個性も様々ですが、中でも『iPhoneで誰でも映画ができる本』の異様さが際立っていて、著者のフォロワーとして何だか誇らしい。
以下は、インパクトのある映像制作入門書ベスト10。
・吉川速男『小型活動寫真術 上・下』、古今書院、1929年
・帰山教正 他『活動写真撮影術』、東方書院、1931年
・北尾鐐之助、鈴木陽『小型映画の知識』、創元社、1932年
・里見八郎『8ミリ入門ハンドブック』、金園社、1957年
・古関敬三『日曜8ミリ』、池田書店、1959年
・安藤秀子『最新8ミリの撮影と編集 : 初心者向き完全図解』、日本文芸社、1973年
・かわなかのぶひろ、原将人 他『映像メディアのつくり方』、宝島社、1982年
・山岸達児『映画・ビデオ 演出の基礎技法』、教育出版センター、1992年
・山崎幹夫『映画を楽しくつくる本 : 55の低予算ノウハウ』、ワイズ出版、2004年
・樫原辰郎、角田亮『iPhoneで誰でも映画ができる本』、キネマ旬報社、2011年
吉川『小型活動寫真術』は、これが私のささやかな、しかし確かな研究成果だと胸を張る姿勢が熱い。彼は他にも大量に入門書を出しています。
帰山『活動写真撮影術』はアヴァンギャルド芸術を家庭に持ち込む野心的な書。北尾・鈴木『小型映画の知識』もまた、アベル・ガンスに学べ!とラディカル。
里見『8ミリ入門ハンドブック』は、高らかに三脚不用論を唱える手持ちカメラ擁護の急先鋒。
古関敬三『日曜8ミリ』と安藤秀子『最新8ミリの撮影と編集』は、専門家ではないアマチュアによるアマチュアのための入門書として、もっとも美しいと感じたもの。
原・かわなか『映像メディアのつくり方』は、実験映画作家がビデオと出会った喜びに溢れている。戦前の映像制作入門書への回帰のようにも見えます。
山岸『映画・ビデオ 演出の基礎技法』は、手持ち嫌悪系入門書の代表といった感じで、カメラを振り回すアマチュアへの怒りに満ちた激しい書です。
山崎『映画を楽しくつくる本』は、穏やかで和やかな本の体裁と対照的に、タブーを犯すことを推奨する危険な誘惑の書。
樫原・角田『iPhoneで誰でも映画ができる本』はメタ入門書的にも読むことができそうな深い書。新技術を礼賛しつつ、思わぬ所で鋭く映画史に接続させる、映像制作入門書版『イメージの進行形』。
この辺りの話を元にした映画とコミュニケーションをめぐるテキストを、うまくいけば来年ぐらいに発表できそうです。もしも発表媒体があれば、いつか、より詳細かつ丁寧に映画制作入門書の記述の変遷を追った研究的体裁のテキストも書きたいと思っています。