qspds996

揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

マイケル・J・ギャラガー『ネット有名人』2016年


INTERNET FAMOUS - OFFICIAL TRAILER 2016

 

Internet Famous | Netflix

 

ネットホラー『スマイリー』で注目を集めた1988年生まれの映画マイケル・J・ギャラガーが手がけたコメディ。

 

高視聴率を誇る人気テレビ番組「クリス!ショー」が第5回ウェブスター賞を開催し、ネット上の有名人5名がファイナリストに選ばれた。一人目は、愛娘ルーシーのドッキリ動画制作をおこなうデール・ハンド。あの手この手でルーシーを怖がらせて視聴者数を稼ぎ、近頃はグッズ販売にまで手を出している。二人目は女優志望のベロニカ・デッカー。ふざけてダンスを踊る姿をYouTubeに投稿され、その映像を素材としたMADムービー「ワブリー・ウォーク(よろよろ歩き)」が大流行して不本意な注目を浴びることになった。3人目は、MVのパロディ動画やデイリーブログの公開で熱狂的なファンを集めているトーマス・バターマン。「パロディ・キング」を自称し、ファンを「従業員」と呼び、彼らは自分のためなら何でもしてくれると豪語する。4人目は「口コミ動画の館」を運営するアンバー・デイ。セクシーなコスチュームでコメディショーを披繰り広げ、ファンの9割以上が男性であるという。5人目は映画監督を名乗るデニス・ワッサーマン。猫のミスター・ブランケットを撮影した動画が評判になるが、それが彼自身の作家性に因るものではなく、ミスター・ブランケットの人気なのだということを認めようとしない。彼らはウェブスター賞受賞者に与えられる「自分自身の番組を持てる」権利を求めて、「クリス!ショー」の会場に集うが……。

 

『ネット有名人』における「笑い」は、ウェブ空間で見せる振る舞いが現実空間に現れた際に生じる軋轢によってつくり出されている。ネット上のコミュニティを喜ばせるためのパフォーマンスは次第にエスカレートし、そのコミュニティに参加していない周囲の人びとを驚かせたり、困惑させたり、ときには激しく怒らせたり呆れさせたりもする。同作に登場するエピソードは、動画共有サービスの普及とYouTuberの出現以後の社会で「いかにもありそう」なものばかりで、日本でもアメリカでも同じような状況があるのだなと感慨深い気持ちを抱くだろう。

 

ネット有名人たちのパフォーマンスを評価し、序列をつける権威が「テレビ番組」であることは、本作にとって大きな欠点である。オールドメディア(テレビ)の側が一般常識を担い、ニューメディア(ネット)の住人の非常識や世間知らずを笑うという構図がどうしても形成されてしまうからだ。

 

とはいえ、作中にはそうしたネット映画の紋切り型を覆す要素も含まれている。一つはウェブスター賞の審査員3名。それぞれ歌手・司会者、芸能プロダクションの副社長、コメディ俳優という肩書きを持つ彼らは、テレビ側の住人であるが、ファイナリスト5名をしのぐ強烈な個性と天真爛漫さで場をかき乱す。ネットだけでなく、テレビもまた奇妙で特殊なコミュニティを形成してきたのだという相対化の視点が感じられる。

 

そしてもう一つは、会場に集ったファイナリスト5名が、互いにほとんど関わりを持たないこと。立場的にはライバルであるはずだが、敵対するでも嫉妬するでもなく、端から興味がないといった雰囲気だ。ここでは、「ネット上」や「ウェブ空間」といった言葉で十把一絡げにできないネットの多層性が示唆されている。たしかに彼らは同じ「ネット有名人」かもしれないが、ふだん関わっている人間も、所属しているコミュニティも、価値観や目指す方向も、それぞれまったく異なっているのである。