読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

qspds996

揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

原將人監督『あなたにゐてほしい』について

 


あなたにゐてほしい予告編【8フィルム編】劇場公開版 - YouTube

 

風景映画『初国知所之天皇』や『20世紀ノスタルジア』で知られる原將人監督による新作『あなたにゐてほしい』の公開が始まっている(ポレポレ東中野にて、2015年1月31日~2月13日まで)。筆者は2月5日のトークイベントに出演する関係ですでに作品を拝見しているので、以下に簡略ながら現時点での感想を記しておくことにしたい。

 

「フィルム←→ビデオ、このメディア変換が将来への鍵だ」


「撮影と編集はビデオで、上映はフィルムでということができれば、それはビデオが映画のシステムと結びついた、ビデオの新しいネットワークになる。」


「ビデオ・シアター構想とメディア変換によって既成の映画のネットワークをつくっていくという考え方は、8m/mや16m/mも含めていま最も必要とされている新しいプランだ。」

 

思えば原監督は、1982年に刊行された『映像メディアのつくり方』(宝島社)の中で上記のように述べていた。この時点ですでに、ハイビジョンと35ミリフィルム、8ミリフィルムなどをハイブリッドさせた『あなたにゐてほしい』の原型となるアイデアが用意されていたというわけだ。

 

言い添えておくと、ひとつの作品の中に複数のメディアを共存させる手法は『20世紀ノスタルジア』でもすでに試みられている。しかしそこでは、映画制作をおこなう若い男女という「メタ映画」的な設定が物語に組み込まれていたために、作中にフィルムとビデオが混在することにも分かりやすい理由付けが為されていた。しかし本作では、物語の進行とは独立した論理のもとに次々とデジタルやフィルムのルックが切り替わっていく。そうした激しいメディア間の跳躍に戸惑う観客もいるかもしれない。

 

しかし原監督の映画を見続けてきた者にとっては、こうしたありかたこそが彼の真骨頂であることを知っているだろう。原監督は、単一の枠の中に収められ、単線的な時間の中で進行する「映画」という枠組を、あらゆる仕方で拡張・逸脱することを試みてきた。

 

例えば『初国知所之天皇』や『MI・TA・RI 』などの作品では、マルチ・スクリーン、再生速度の変化や弾き語りを伴ったライブ上映を敢行。映画と短歌を交わらせる「万葉律」、2011年には夏目漱石こゝろ』を原作とした映画制作の過程をすべてUstream配信するという企画も立ち上げられている。

 

「まるで映画を観てゐるやうだ」。かつてそう呟いた彼の映画世界は、メディアとメディアを移動していくのみならず、この現実世界とも混ざり合っていく。『20世紀ノスタルジア』のラストで予告された「双子の赤ちゃん」の誕生は、2013年7月に双子の姉妹が生まれることで現実化し、さらにその二人を主役とした映画『双子の星』が進行中である(クラウドファンディングまで!)。

 

一応、『あなたにゐてほしい』は「戦死した婚約者が抱いていた地元山村へのテレビ電波到達という夢をかなえようとする女性の奮闘を見つめる」物語映画として宣伝がおこなわれているが、やはり本作もまた、メディアとメディア、映画と現実との往還運動の中でうまれる「何か」にこそ注目すべき作品であると私は思う(ワーク・イン・プログレスと言ってもよい)。

 

「仮留め」という言葉が思い浮かぶ。全編を通して見えてくる、原監督がショットとショットを切り離したり、つなげたり、別のメディアに変換したり、字幕を載せてみたり、といった手つきのおおらかさ。そこでおこなわれた作業は決して完成・固定されない。あくまで「仮留め」されているだけで、いずれまた別の連結が試みられ、また別のかたちが生まれるのだろうという予感がある(実際、私はすでに2つのバージョンを観ている)。それは、日々無数にアップロードされているウェブ動画をつくる手つきとも重なる。

 

 こうしたありかたには、2月5日のトークで共演させていただくメディアアーティスト中嶋興氏の作品『生物的サイクル』を想起する。これは、中嶋氏が1970年に制作した映像作品を「No.1」として、その上に様々な加工を加えて「No.2」を作成し、それをさらに加工して「No.3」をつくり……というように、次々に新たなバージョンをつくりだしていくというビデオアート作品だ。

 

『あなたにゐてほしい』もまた、今回のバージョンを完結したひとつの作品だと考えて観るよりも、監督の手によって常に変更が加えられ、変化を繰り返す生物のようなものとして捉えたほうが良いのではないか。いままさに生きつつある映画。次に出会う日には、もう今日と同じ姿をしていないであろう映画。一期一会の映画なのだ。