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石川卓磨「教えと伝わり」TALION GALLERY

 

石川卓磨「教えと伝わり」TALION GALLERYを見た。

以下、鑑賞直後の雑感(展示は5月1日まで)。

 

タリオンギャラリーでは2年ぶりとなる個展「教えと伝わり」では、3人の女性が登場するダンスレッスンの場面をもとに、新作の映像と写真作品を展示します。3人の女性は講師、デモンストレーター、聴講者であり、ひとつの「ダンス」がそれぞれの動作によって伝えられ、不安定なリズムのなかで完成しつつ解体していく過程があらわれます。(プレスリリースより)

 

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モノクロの画面上で、カタカタとぎこちない身体の運動が繰り広げられる。初期映画の運動を徹底的に解体・再構成するケン・ジェイコブスを思わせるが、制作プロセスは大きく異なっている。会場で配布されていたステートメントによれば、「デジタルカメラで高速連写した写真を千枚以上つないで再生」しているとのこと。事後的な編集による操作(だけ)ではなく、講師とデモンストレーターによる「教えと伝わり」の過程に、カメラを回す撮影者とその映像も、当事者として巻き込まれているわけだ。

 

じっさい「教えと伝わり」の関係は、講師からデモンストレーターへの関係(デモンストレーターから講師への関係)には留まらない。別の壁面に投影される三人目の出演者=聴講者は時折、眼の前で繰り広げられるダンスレッスンを模倣するような動きを見せる。講師から聴講者へ。あるいはデモンストレーターから聴講者へ。またあるいは、講師とデモンストレーターから聴講者への「伝わり」が記録される。

 

しかし石川は、そうしたドキュメンタリー的瞬間を相対化するべく、聴講者の手の動きをあからさまに強調するクローズアップ・ショットを挿入してみせる。これは映画なのだという「教え」。それにより、その手の動きが演出なのではないかという可能性が観客に「伝え」られる。「教えと伝わり」の関係は、作者としての石川と聴講者との間にも、そして作品から鑑賞者の間にも形成されていることが示唆される。

 

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カラックスの『ホーリー・モーターズ』を想起させる、モーションキャプチャ用のスーツのような衣装を着た人物が映る写真作品が示しているように、本作は観客に対して、人間の知覚への反省を促す。

 

モーションキャプチャによって得られた運動の記録は、そのままではとても使い物にならないというのはよく聞く話だ。人間の身体の運動は、われわれが想像しているほど滑らかなものではない。ただ腕をぐるりと回す動作だけをとってみても、肩の凝りが運動を鈍らせる瞬間、関節の引っ掛かり、速度の修正、その他様々な要素が滑らかな回転運動を妨害する。

 

高速連写した写真による間断的な運動も、そうした滑らかではない身体の動作を強調する。30fpsや24fpsではそれほど意識に上らない、本来の「正しい」軌道に対する身体のズレが、映像的に増幅され、可視化されるのだ(ただしそれだって、編集の際に意図的に組み込まれたズレではないとは言い切れないのだが)。

 

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石川は映画と美術を横断する作家であると言われる。しかし、「映画をハッキングする」等と言いながら、その実、作品の見栄えを良くしたいがためだけにいかにも「映画的」なルックを選択する美術家が後を絶たない中、石川が特別に「映画と美術を横断する」作家であると言われるのはなぜだろうか。

 

本作において、その根拠は「聴講者」の存在によって示されている。講師、デモンストレーター、聴講者という三者の中で、もっともキャスティングの必然性が薄い(恣意性が高い)のが聴講者だ。彼女はダンスを教える責任も教わる責任も負わされていない。その役割をこなすために必要な技能があるわけでもない。傍観者としてただそこに居れば良い。

 

従って、聴講者を演じるキャストは、「教えと伝わり」という主題が要請する必然性だけでは選ぶことができない。多少なりとも、異なる根拠を持ち込まなければならない。そこで動員されるのが映画史的記憶である。特に何をするわけでもなく、ただ佇んでいるだけで記憶に残る顔。それは、明らかに美術ではなく、映画が主要な関心としてきたものだ。石川は映画を模倣するのではなく、映画の問題に正面から取り組んでいる。要するに、映画を撮っている。

 

石川は過去にも鑑賞者の表情に着目した作品を手がけているが、それに限らず、本作の聴講者が浮かべる表情は、これまでの石川作品の出演者たち皆が浮かべていた表情と「同じ」であると言い切ってしまおう。その顔は間違いなく、映画作家としての石川卓磨の象徴なのだ。

 

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石川卓磨 個展「教えと伝わり|Lessons and Conveyance」

2016年4月2日(土)-2016年5月1日(日)
TALION GALLERY
オープニングレセプション:2016年4月2日(土) 18:00-20:00