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揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

キム・グァンシク『ゴシップサイト 危険な噂』2014年


『ゴシップサイト 危険な噂』予告編

 

チラシ(裏情報を流す情報誌)によるゴシップ記事の標的となり、不可解な自殺を遂げた女優ミジン。彼女と二人三脚で歩んできたマネージャーのウゴンは、事件の真相を探り、ミジンを死に追いやった黒幕に復讐を果たそうとする。


物語の背景には、韓国で実際にゴシップ記事やネットの誹謗中傷を苦にして著名人が自殺する事件が多発しているという切実な事情があるだろう。ただし作中で「悪」として描かれるのは主に大企業や政府であり、ウゴンはチラシを発行する小規模な編集部や有象無象のネットユーザーを味方につけることで権力との戦いに挑む。ゴシップ誌やネットは善悪両面を持ち合わせた両義的なものとして描かれている。

 

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井口昇『まだらの少女』2005年


UMEZU KAZUO:KYOFU GEKIJO-MADARA NO SHOJO(楳図かずお恐怖劇場 まだらの少女)TRAILER 2005

 

楳図かずおの短編漫画をオムニバスで実写映画化する企画「楳図かずお恐怖劇場」の一作。


脚本を担当した小中千昭は、原作の昭和テイストを再現するため、都会に暮らす少女・弓子が母の故郷である山奥の農村を訪れるというプロットを考案する。他方で、現代的なモチーフを取り込んでほしいという楳図からの要望に応えるため「ネットで広まる悪意の伝播」という要素を付加。田舎に暮らしながらも、ネットを通じて都会の同世代の生活を覗き見ている少女・京子を登場させることで、都市と地方の情報格差という単純な構図には収まらない、複雑な情報(憎悪)の伝播のプロセスを描き出そうとした。

小中千昭『恐怖の作法──ホラー映画の技術』河出書房新社、2014年、243〜249頁)

 

楳図かずお恐怖劇場「まだらの少女」&「ねがい」セット [DVD]

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ディエゴ・ヴェラスコ『サイバーゲドン』2012年


Cybergeddon Official Trailer (2012) - Web Mini-Series

 

サイバー犯罪警鐘を鳴らす各国で多発するサイバー犯罪を追っていたFBI捜査官のクロエは、陰謀に巻き込まれ、自身が容疑者として追われる身となる。彼女は獄中の天才ハッカー・ラビットと同僚捜査官フランクの協力を得て反撃を開始。「サイバーゲドン」(アルマゲドンをもじった造語。あらゆるものがネットワークに接続された情報化社会において、クラッキングにより世界規模で壊滅的な被害がもたらされること)を引き起こそうとする黒幕の存在を突き止める。


CSI:科学捜査班」シリーズの仕掛け人アンソニー・E・ズイカーが製作し、米Yahoo!の独占配信により世界25か国以上・10の言語で公開されたネットドラマ映画。日本ではyahoo! Japan子会社が運営する無料動画配信サイト「GyaO!」で配信された。Netflix初のオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(2013年)公開の前年、ストリーミング配信サービスの隆盛前夜に現れた無数の試行錯誤の一つであり、当時のネットドラマとしては破格の製作費(600万ドル)が注ぎ込まれた。


アンチウィルスソフトウェア「ノートン」で知られるシマンテック社が監修を務めた現実的で本格的なサイバー犯罪描写という触れ込みがなされる一方で、専門知識が皆無でも見られる明快な物語、「24 -TWENTY FOUR -」シリーズを彷彿とさせる分割画面やリズミカルなカット割り、各13分のエピソード全9話という構成(ソフト化の際は全89分の映画としてまとめられている)など、ウェブ動画の宿命である「ながら見」視聴に耐える作品づくりが試みられている。

 

Cybergeddon (DVD + VUDU)

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クリスチャン・ディッター『ワタシが私を見つけるまで』2016年


『ワタシが私を見つけるまで』トレーラー

 

マンハッタンを舞台に、自分を見つめ直すため彼氏と別れたアリス、パーティー三昧の遊び上手ロビン、精子提供を受ける決意をする産婦人科医メグ、デートサイトで結婚相手を探すルーシーと、三者三様のシングル・ライフを描き出したコメディ。


作中に言及される『セックス・アンド・ザ・シティ』や『ブリジット・ジョーンズの日記』と同様、女性たちの赤裸々で等身大な日常が語られる物語のなかに、wifi接続にまつわる悲喜劇、デートサイトの気軽な利用、メールの文面指南などネット関連の「あるある」ネタがカジュアルに散りばめられている。決して映画の主題や主役として前景化するわけではないが、そのことで却って、彼女たちの日常にネットが深く浸透していることが強調されていると言えよう。

 

 

 

F・ハビエル・グティエレス『ザ・リング/リバース』2017年


映画『ザ・リング/リバース』予告編

 

『リング』(中田秀夫、1998年)のハリウッドリメイク第三弾。前作『ザ・リング2』(中田秀夫、2005年)から12年越しの続編ということで、呪いのビデオの拡散は主にパソコン上の動画ファイルをコピーすることでおこなわれる。


大学で生物学を教える教授ガブリエルが秘密裏に呪いのビデオの研究をおこなうシーンなど、『らせん』(飯田譲治、1998年)のような科学的・バイオホラー的アプローチに向かうのかと期待を持たせるが、大学に警察の捜査が入って以降尻すぼみに。呪いの動画がSNSを通じて世界中に拡散していく結末も、『貞子3D』(英勉、2012年)や『貞子vs伽倻子』(白石晃士、2016年)ですでに試みられた後であり新鮮味はない。

 

 

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スコット・B・ハンセン『ポゼッション・エクスペリメント』2016年


『ポゼッション・エクスペリメント』 予告編

 

宗教学を学ぶ大学生ブレンダンは悪魔祓い(エクソシスム)を研究課題として選び、調査の過程を動画ブログで逐一公開することに。同じ授業を受けている学生クレイ、SNSで知り合った医大レダ等と20年前に惨劇が起きた屋敷に赴き、自らの身体に悪魔を憑依させる儀式のライブ配信を敢行する。


除霊の様子をライブ中継する試みとしては『着信アリ』(三池崇、2004年)等の先行例があるものの、悪魔祓いとネットのライブ配信を結びつけるアイデアにはちょっとした新鮮さがある。SNSを通じた告知や資金集め、野次馬のコメントや宗教団体からの批判、配信を見守る黒幕めいた人物……と、悪魔祓いを密室劇に留めずひたすら大風呂敷を広げていく序盤から中盤までは期待を持たせるが、事態が本格的に動き出すと凡百のエクソシストものと代わり映えしなくなり、ネットやライブ配信といった要素も脇に追いやられてしまうのが惜しい。

 

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手ぬるい業界批判『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(リューベン・オストルンド、2017年)


映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』予告編

 

スウェーデンの監督リューベン・オストルンドが、自身が制作した美術作品をモチーフとして制作したドラマ映画。平等や思いやりを謳う展覧会を企画しておきながら、無自覚にその理念とはかけ離れた行動をとってしまうキュレーター・クリスティアンの日々を追うことで、格差社会を見て見ぬ振りをするアート業界および富裕層の偽善や傲慢さを風刺している。


しかしクリスティアン個人の人間的な弱さや曖昧さを強調しすぎたために、アート業界批判は手ぬるいものになってしまったと言わざるを得ない。


例えば展覧会の宣伝動画が「炎上」するシークエンス。広告代理店が話題づくりのために提案した過激なアイデア(路上生活者の少女が「思いやりの聖域」であるはずの作品《ザ・スクエア》のエリア内で爆死する)に対し、プライベートのいざこざで心ここに在らずなクリスティアンは内容をよく確かめもせずゴーサインを出し、知らぬ間に美術館のウェブサイトやYouTubeで公開されてしまう。当然この動画は世間から激しいバッシングを受け、クリスティアンは辞任に追い込まれることになる。


一見、批判の矢面に立たされているのはクリスティアンおよび美術館関係者のようであるが、もともと動画のアイデアを出したのは(アートへの理解のない)広告代理店であり、またクリスティアン個人の不注意が重なった結果の不運であるという逃げ道が残されている。結果的にはキュレーターがしっかり仕事をしていればじゅうぶん回避できた炎上事件として描かれているため、オストルンドの批判の矢はアート業界が構造的・本質的に抱える問題に届く前に墜落してしまう。この映画が本気でアート業界批判に取り組むつもりならば、キュレーターが万全を期し、堂々と世に問うた宣伝動画が炎上しなければならなかった。