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揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

仁同正明『死の実況中継 劇場版』2014年


「死の実況中継 劇場版」予告編

 

乃木坂46主演のホラー映画シリーズ「乃木坂46×最恐都市伝説」の第1弾(第2弾は『デスブログ 劇場版』、第3弾は『杉沢村都市伝説 劇場版』)。

 

能條愛未演じる歩は高校時代にイジメを受けていたが、友人の依子が身代わりになることで救われ、いまは大学の映画サークルに入って新たな友人たちと過ごしている。ある日、サークルでホラー映画を撮ろうという話が持ち上がった。題材は、ネットの見知らぬURLをクリックすると赤い服の女が映し出され、彼女が殺しにやって来るという都市伝説「死の実況中継」。ホラーが好きでない歩もしぶしぶ協力するが、やがて「死の実況中継」が現実のものとなって彼女らに襲いかかる。


映画サークルという設定を利用し、赤い服の女を撮影・配信しているのは誰なのかと問うような自己言及的な台詞や叙述トリックが導入されているが、思いつきの域を出ておらず、映画の「恐怖」にも「サスペンス」にも貢献していない。

 

死の実況中継 劇場版 [DVD]

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ネット映画の側面から見た『ちはやふる -結び-』(小泉徳宏、2018年)


「ちはやふる -結び-」予告

 

末次由紀による人気漫画の実写映画化第3作。この10年の日本映画の到達点という感じで素晴らしかった。大げさでなく、ついにデジタルシネマに固有な文体が発見された!と言いたくなるような高揚感を味わった。

 

……と、その根拠を丁寧に書いていく余裕が今はないので、ひとまず備忘録として「ネット映画」の側面から見た『ちはやふる -結び-』について記しておく。


音楽を担当した横山克ツイッターで「「緊張感をコントロールする」という事を試みています。試合の緊張感で心拍数が上がったり下がったりする効果を劇場でこそ出せる低い音で狙ってます」と語っているように(https://twitter.com/masaruyokoyama/status/974885521565532160)、本作の魅力は映画/競技かるたのリズムをつくりだすためにこそ、すべての音とイメージが動員されている点にある。


美しい声を持つキャストの起用(広瀬すず新田真剣佑野村周平上白石萌音松岡茉優……)、説明台詞でも耳に馴染む言葉選び、観衆のざわつきやカルタの跳ねる音から無音への切り替え、空間的な広がりのあるBGMとそれに対応する光に満ちた画面設計、スローモーションやアニメーションの大胆な導入……といった主要素はもちろんのこと、競技を配信するウェブ動画上に視聴者のコメントが流れていくショットも見逃せない。各自が内面を吐露するナレーションの速度、百人一首の歌が詠み上げられる速度に加え、映画の観客が文字を追うことによってうまれる速度までもが導入され、映画のリズムチェンジに貢献している。

 

ライバル同士である太一と新がLINEでメッセージを交換するシーンでも、それまで多くの音や声に満たされていた世界が静寂に包まれ、まさに「無言の会話」が繰り広げられる。観客にテキストを読ませることが、映画のリズムにアクセントをつけることにつながっているのである。

 

従来のネット描写において、スクリーン上のテキストを読ませることは、意図せぬ冗長さを招いたり、観客の視聴負担を増大させるなど、負の側面が目立つことのほうが多かった。しかし『ちはやふる -結び-』は、そうした遅延を逆手にとってリズムチェンジに応用し、グルーブを生み出す手法を発明してみせたのだ。

 

映画『ちはやふる』完全本 ―上の句・下の句・結び―

映画『ちはやふる』完全本 ―上の句・下の句・結び―

 

 

永江二朗『ツイッターの呪い』2011年


ツイッターの呪い(予告編)

 

タイトルの通り、Twitterを題材にした全5話のオムニバス。


とある廃墟に出かけた若者たちに異変が起こりツイートが途絶えた事件(第1話「実況肝試し」)、フォローされた人間が22日後に命を落とすと噂されるアカウント(第2話「呪いのフォロー」)、死後もツイートを続けて女性に粘着するストーカー(第3話「死者からのつぶやき」)、Twitterで見知らぬ他人から偽の除霊方法を教わった男に起きた災難(第4話「友人」)、Twitter悪魔崇拝にのめりこむ息子を捜索する父親(第5話「呪いのつぶやき」)といった事件に対し、映画の製作陣が独自取材を試みるという体裁をとる。


タイムラインやDM(ダイレクトメッセージ)など、Twitterの仕組みや機能についての手厚い解説を加えていく親切設計だが、そのぶん話の流れが弛緩してしまうという、実在するSNSを扱った映画にありがちな問題点を本作も踏襲してしまっている。「現実にあってもおかしくない」ようなリアリティーを重視するあまり、恐怖描写が控えめなのもマイナス点。

 

ツイッターの呪い

ツイッターの呪い

 

 

和田篤司『アバター』2011年


映画『アバター』予告編

 

地味で引っ込み思案な女子高生の阿武隈川道子は、クラスの中心的存在・妙子の紹介で半ば強引に「アバQ」というSNSに入会させられる。乗り気でなかった道子だが、スロットでレアアイテムを入手して周囲からちやほやされたことを機に、アバQにのめりこむ。ウェブ上の分身=アバターを美しく着飾るため、手段を選ばず課金を重ねた道子は、妙子を蹴落としてクラスの女王に。しかしその行為はエスカレートし、やがて窃盗や殺人といった犯罪行為にまで至ってしまう。

 

山田悠介による同名小説の映画化。ネットを得体の知れない「社会の敵」とみなす平凡な物語だが、本作の美点は、アバQを徹底して携帯電話の画面上にのみ現れるものとして扱うことだ。ウェブ上の出来事が現実空間に直接的な影響を及ぼすわけではなく、イメージ映像を用いた派手な描写で盛り上げようとするのでもなく、小さなインターフェース上の画像が変化する(アバターが着替える)という禁欲的な描写を守ることによって、ただそれだけのために犯罪に手を染める道子や妙子の異様さが際立つのである。

 

アバター

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バーバラ・ウォン『お別れクラブ -Break Up Club-』2010年


SFIAAFF '11: BREAK UP CLUB Trailer

 

愛するフローラに振られて失意のジョーは、カフェのパソコンで「お別れクラブ」(www.breakupclub.asia)というウェブサイトを見つける。他のカップルを別れさせることと引き換えに恋人と復縁できるという謳い文句に乗せられ、友人とその恋人の名前を書き込むと、現実にフローラとヨリを戻すことができた。ジョーは束の間の幸福を味わうが、迂闊な行動でまたしてもフローラを怒らせてしまう。


タイトルにも冠せられている「お別れクラブ」だが、謎めいたそのサイトの正体やカラクリに踏み込むことはなく、物語上もさほど重要な役割を担っていない。メディア論的な観点からはむしろ、ジョー視点のPOVショットを多用したドキュメンタリー的・リアリティーショー的画面づくりや、バーバラ・ウォン監督が実名で登場するメタフィクション的要素のほうが目立っている。

 

www.netflix.com

 

Break Up Club ( Blu-ray )

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マイルズ・フェルドマン『盗撮ドットコム』2000年

 

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オーディションで集めた女たちを一軒家に住まわせ、無数のカメラを設置して、その日常生活を覗き見るサイトで一儲けを企むフランクとアレックス。しかしカメラの不具合や課金システムの不備などで、計画は思うように進まない。そんななか、奇妙な覆面をかぶった殺人鬼がサイトの参加者を襲い始める。


『マーダー・ネット』(マティアス・ルドゥー、2002年)や『処刑・ドット・コム』(マーク・エヴァンス、2002年)に先駆けて、覗きサイトで起こる犯罪を扱った初期のフィルム。しかし「ブロードバンド・ショッキング・ホラー」という触れ込み(日本販売VHSのコピー)にもかかわらず、事件が起きるのはなぜかサイトの公開前であり、ネットを題材としておきながらライブ配信や公開殺人といった要素をまったく活かせていない。

 

盗撮ドットコム [DVD]

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ミック・ギャリス『バーチャル・ウォーズ3』1998年

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人工知能研究の大家ジョーメッセンジャー博士のもとに、助手のジュリエットがやってくる。病に冒され余命わずかの彼女は、自分の脳をコンピュータにアップロードすれば永遠の命を得られると考え、ジョーの反対を押し切って実験を決行。肉体を持たないデータだけの存在として生まれ変わり、家電やエレベーター、飛行機などコンピュータに接続されたあらゆるものをコントロールして邪魔者の排除に乗り出す。


ネットワーク上を自由に移動してクラッキングを繰り返す幽霊というモチーフは、1993年の『ヴァイラス/インターネットの殺人鬼』(レイチェル・タラレイ、1993年)と共通している。「ユビキタス社会」や「モノのインターネット」(Internet of Things、IoT)が提唱され始めた90年代末頃の時代の空気を反映したフィルムと見做せるだろう。

 

バーチャル・ウォーズ3【字幕版】 [VHS]

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バーチャル・ウォーズ3【日本語吹替版】 [VHS]

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