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揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

白石晃士(構成・演出)『集団自殺ネット』2003年

 

集団自殺ネット [DVD]

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白石晃士と演出助手の栗林忍が、自殺系サイトや自殺志願者たちに取材するフェイクドキュメンタリー。ネット上に現れては消えを繰り返し、それを見た者は希死念慮に囚われるという「奇妙な映像」の噂の真相に迫る。


最後に映し出される「妙な映像」は肩透かしだが、いかにもありそうな自殺志願者のウェブサイトやイラストギャラリー、BBSへの書き込み内容など、一瞬表示されるだけの細部の作り込みに力が入っており、2000年代初頭の日本のインターネットの空気をよく伝えている。

野口照夫『たとえ世界が終わっても Cycle soul apartment』2007年


たとえ世界が終わっても(予告編)

 

余命数年を宣告された真奈美は、自殺サイトの管理人・妙田に連絡を取り、死にたい者たち同士で集まる。ところが、妙田が見たかったテレビドラマの最終回について語り始めたことをきっかけにして、参加者たちがこの世に未練を感じ始め、結局、集団自殺は決行されなかった。真奈美は会社の屋上で一人飛び降り自殺を図るが、そこに妙田が現れ、「あなたに助けてもらいたい人がいる」と奇妙な提案を持ちかける。


短編映画や深夜ドラマで名を馳せた野口照夫の長編初監督作品。ネットの自殺サイトが「前世の記憶」をめぐる奇妙な物語世界へと観客を誘う扉となる構成は、『自殺サークル』(園子温、2002年)や『ヴァンパイア』(岩井俊二、2012年)と共通しており、それはまた、出会い系サイトをきっかけとする数多の恋愛映画の変奏でもあるだろう。

 

 

 

李相日『悪人』2010年


悪人

 

吉田修一による同名小説の映画化。佐賀で平凡な生活を送ってきた紳士服量販店員の光代と、図らずも殺人犯となってしまった長崎の土木作業員・祐一が出会い系サイトを通じて知り合い、逃避行に出る。


ジャーナリストの三浦展は、携帯電話やインターネットの普及によって、従来は繁華街や飲屋街などに限定されていた「悪所」(地域共同体の目が届かず、犯罪を誘発させやすい匿名的な空間)が各地に偏在するようになったと指摘しているが(『ファスト風土化する日本——郊外化とその病理』洋泉社、2004年)、『悪人』に描かれるのはまさにこうした悪所の問題だと言えるだろう。

 

祐一が出会い系サイトで知り合った女・佳乃を突発的に殺してしまうことも、県境の山道で事件が起きたため警察の捜査が難航することも、光代が出会い系サイトで殺人犯の祐一と出会い運命を狂わされることも、本作の重要な事件はすべて匿名的空間で起きているのである。

 

悪人 (特典DVD付2枚組) [Blu-ray]

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片岡K『インストール』2004年

 
インストール

 

不登校の女子高生・朝子は、自室にあるものすべてを処分しようと出かけたゴミ捨て場で、同じマンションに住む小学生のかずよしと出会う。かずよしは、朝子が昔祖父からもらったのだというパソコンを譲り受け、新しいOSをインストールした上で、一緒にアダルトチャットでバイトをしないかと提案。二人は「コケティッシュチャット館」というサイトで人妻「ミヤビ」に成りすまし、大人たちの世界を垣間見ていく。


綿矢りさによる同名小説の映画化。原作と同様、物語は朝子のモノローグによって進行するが、演じる上戸彩のゆったりとした語り口は、句読点が少なく一気に畳み掛けるような綿矢の文体とは異質であり、結果、朝子の人物像は大きく変わっている。他方で監督の片岡Kは、例えばチャット相手の本当の職業を推測するシーンなど、朝子の想像や妄想の内容をその都度視覚化し、場面転換の多い賑やかな印象をつくり出すことで、原作のスピード感を再現しつつ、ネット映画の視覚的地味さの問題にも対処しようとしている。

 

インストール (河出文庫)

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イーライ・ロス『グリーン・インフェルノ』2013年


11/28(土)公開『グリーン・インフェルノ』特報

 

『ホステル』(2005年)のイーライ・ロスが監督したスプラッター・ホラー。


アレハンドロという名のカリスマが組織した活動家グループが、天然資源の乱開発を進める企業を止めるべく、アマゾンの奥地に向かった。彼らは抗議運動の様子をスマホで撮影してウェブ配信し、大きな評判を呼ぶ。しかし意気揚々と帰路についた直後、彼らを乗せた小型飛行機が事故で墜落。ジャングルで生存者たちを待ち構えていたのは、人食い人種と噂されるヤハ族だった。


2012年、ウェブ動画で私刑を執りおこなう大学生グループについての脚本を執筆中だったロスは、NPO団体インビジブル・チルドレンが制作した「KONY2012」という動画の存在を知る。「KONY2012」はウガンダ共和国の反政府ゲリラによる非道を告発する人道キャンペーンとして大きな注目を集めたが、同時に事実の歪曲や寄付金の不透明な使途などが批判に晒され、心身を病んだ主導者ジェイソン・ラッセルが奇行に走って逮捕されるという顛末を迎えた。ロスは、こうした活動がスラックティビズム(労力をかけずに社会に良い影響を与えたつもりになっている自己満足行為)に過ぎないと評価を下すと共に、自らの脚本のアイデアに自信を得て、『グリーン・インフェルノ』の制作へと進んでいったのだという(プロダクション・ノーツより)。


日本では「意識高い系」と呼ばれるようなタイプの人々を痛烈に批判するフィルムである。しかし、上っ面の正義や善意を揶揄するために「野蛮な先住民族」というステレオタイプが利用・再生産される光景は──日本語版ウェブサイトで、撮影に協力したカラナヤク族は協力的で楽しんでいたというエピソードが紹介されることも含めて──ポリティカル・コレクトネスやリベラルへの不満と揶揄が噴出する現在のウェブ空間の状況とあまりに親和的だ。『グリーン・インフェルノ』自身もまたインターネットの外部ではあり得ず、その生態系の内部に組み込まれているのである。 

チャールズ・ウィンクラー『ザ・インターネット2』2006年


The Net 2.0 Trailer HD

 

コンピュータ・アナリストのホープ・キャシディは、大企業スーザー・インターナショナルからヘッドハンティングされ、トルコ・イスタンブールへと赴く。ところが現地に到着すると、就労ビザではなく観光ビザが発行されていたというトラブルが発生。アメリカ領事館でパスポートを更新するが、今度は名前がケリー・ルースという別人のものになっていた。銀行口座を空にされ、旅先で知り合った人びとも殺され、ホープは自分がホープであることを証明する手段を絶たれた上、大金の窃盗と殺人容疑で追われることになる……。


『ザ・インターネット』の続編となるビデオ映画で、日本では『ザ・インターネット2:美しき逃亡者』という邦題でテレビ放映された。前作の監督アーウィン・ウィンクラーは製作に回り、息子のチャールズ・ウィンクラーが監督をつとめている。


前作とキャストや物語上のつながりはないが、個人情報の操作を中心としたサイバー犯罪を題材にしている点、そして女性ヒーローの大活躍を描いている点は共通していると言えるだろう。両作の主人公は共にコンピュータの専門家であり、ただ逃げ惑うばかりではなく、映画の後半には積極的に反撃に転じる。巧みに監視の目をかい潜ってハッキングを敢行したかと思えば、カーチェイスや格闘、全力疾走のアクションも披露し、陰謀を企む組織に一泡吹かせるホープ役のニッキー・デローチ(そして前作の主演をつとめたサンドラ・ブロック)に、ウィンクラー親子はネット時代の新たなヒーロー像を見ていたのではないか。

 

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ジョン・カーチエッタ『ティーンエイジ・カクテル』2016年


Teenage Cocktail Official Teaser Trailer (2016) Nichole Bloom, Fabianne Therese Movie HD

 

 

転校生のアニーは、高校で美しいダンスを踊る少女ジュールズと出会い意気投合、互いに惹かれあっていく。ジュールズは閉塞的な地元から抜け出し、ニューヨークでダンサーになる夢を叶えるために、アダルトライブチャットで金を稼いでいた。彼女に誘われてアニーもライブチャットを始めるが、そのことが学校にばれて呼び出しを食らってしまう。切羽詰まった二人は、親に知られる前にニューヨーク行きの計画を決行すべく、ネットで売春相手を探して残りの資金を稼ぐことに。募集に食いついてきたのは、フランクと名乗る中年の男だった。妻子持ちで、プール清掃サービスで働く彼は、見栄を張って身なりを整え、金持ちのフリをしてアニーとジュールズを迎えるが……。


Netflixでなぜか無数に配信されている「アダルトサイトが身を滅ぼす」系映画の一つ。身体を「売る」側と「買う」側のどちらか一方に肩入れし、他方を得体の知れない不気味な悪人として描くのではなく、両者の満たされぬ日常を同時並行で映し出すことで、やがて訪れる悲劇の不可避性を強調するのに成功している。

 

www.netflix.com