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揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

片岡K『インストール』2004年

 
インストール

 

不登校の女子高生・朝子は、自室にあるものすべてを処分しようと出かけたゴミ捨て場で、同じマンションに住む小学生のかずよしと出会う。かずよしは、朝子が昔祖父からもらったのだというパソコンを譲り受け、新しいOSをインストールした上で、一緒にアダルトチャットでバイトをしないかと提案。二人は「コケティッシュチャット館」というサイトで人妻「ミヤビ」に成りすまし、大人たちの世界を垣間見ていく。


綿矢りさによる同名小説の映画化。原作と同様、物語は朝子のモノローグによって進行するが、演じる上戸彩のゆったりとした語り口は、句読点が少なく一気に畳み掛けるような綿矢の文体とは異質であり、結果、朝子の人物像は大きく変わっている。他方で監督の片岡Kは、例えばチャット相手の本当の職業を推測するシーンなど、朝子の想像や妄想の内容をその都度視覚化し、場面転換の多い賑やかな印象をつくり出すことで、原作のスピード感を再現しつつ、ネット映画の視覚的地味さの問題にも対処しようとしている。

 

インストール (河出文庫)

インストール (河出文庫)

 

 

 

イーライ・ロス『グリーン・インフェルノ』2013年


11/28(土)公開『グリーン・インフェルノ』特報

 

『ホステル』(2005年)のイーライ・ロスが監督したスプラッター・ホラー。


アレハンドロという名のカリスマが組織した活動家グループが、天然資源の乱開発を進める企業を止めるべく、アマゾンの奥地に向かった。彼らは抗議運動の様子をスマホで撮影してウェブ配信し、大きな評判を呼ぶ。しかし意気揚々と帰路についた直後、彼らを乗せた小型飛行機が事故で墜落。ジャングルで生存者たちを待ち構えていたのは、人食い人種と噂されるヤハ族だった。


2012年、ウェブ動画で私刑を執りおこなう大学生グループについての脚本を執筆中だったロスは、NPO団体インビジブル・チルドレンが制作した「KONY2012」という動画の存在を知る。「KONY2012」はウガンダ共和国の反政府ゲリラによる非道を告発する人道キャンペーンとして大きな注目を集めたが、同時に事実の歪曲や寄付金の不透明な使途などが批判に晒され、心身を病んだ主導者ジェイソン・ラッセルが奇行に走って逮捕されるという顛末を迎えた。ロスは、こうした活動がスラックティビズム(労力をかけずに社会に良い影響を与えたつもりになっている自己満足行為)に過ぎないと評価を下すと共に、自らの脚本のアイデアに自信を得て、『グリーン・インフェルノ』の制作へと進んでいったのだという(プロダクション・ノーツより)。


日本では「意識高い系」と呼ばれるようなタイプの人々を痛烈に批判するフィルムである。しかし、上っ面の正義や善意を揶揄するために「野蛮な先住民族」というステレオタイプが利用・再生産される光景は──日本語版ウェブサイトで、撮影に協力したカラナヤク族は協力的で楽しんでいたというエピソードが紹介されることも含めて──ポリティカル・コレクトネスやリベラルへの不満と揶揄が噴出する現在のウェブ空間の状況とあまりに親和的だ。『グリーン・インフェルノ』自身もまたインターネットの外部ではあり得ず、その生態系の内部に組み込まれているのである。 

チャールズ・ウィンクラー『ザ・インターネット2』2006年


The Net 2.0 Trailer HD

 

コンピュータ・アナリストのホープ・キャシディは、大企業スーザー・インターナショナルからヘッドハンティングされ、トルコ・イスタンブールへと赴く。ところが現地に到着すると、就労ビザではなく観光ビザが発行されていたというトラブルが発生。アメリカ領事館でパスポートを更新するが、今度は名前がケリー・ルースという別人のものになっていた。銀行口座を空にされ、旅先で知り合った人びとも殺され、ホープは自分がホープであることを証明する手段を絶たれた上、大金の窃盗と殺人容疑で追われることになる……。


『ザ・インターネット』の続編となるビデオ映画で、日本では『ザ・インターネット2:美しき逃亡者』という邦題でテレビ放映された。前作の監督アーウィン・ウィンクラーは製作に回り、息子のチャールズ・ウィンクラーが監督をつとめている。


前作とキャストや物語上のつながりはないが、個人情報の操作を中心としたサイバー犯罪を題材にしている点、そして女性ヒーローの大活躍を描いている点は共通していると言えるだろう。両作の主人公は共にコンピュータの専門家であり、ただ逃げ惑うばかりではなく、映画の後半には積極的に反撃に転じる。巧みに監視の目をかい潜ってハッキングを敢行したかと思えば、カーチェイスや格闘、全力疾走のアクションも披露し、陰謀を企む組織に一泡吹かせるホープ役のニッキー・デローチ(そして前作の主演をつとめたサンドラ・ブロック)に、ウィンクラー親子はネット時代の新たなヒーロー像を見ていたのではないか。

 

ザ・インターネット2 [DVD]
 

 

ジョン・カーチエッタ『ティーンエイジ・カクテル』2016年


Teenage Cocktail Official Teaser Trailer (2016) Nichole Bloom, Fabianne Therese Movie HD

 

 

転校生のアニーは、高校で美しいダンスを踊る少女ジュールズと出会い意気投合、互いに惹かれあっていく。ジュールズは閉塞的な地元から抜け出し、ニューヨークでダンサーになる夢を叶えるために、アダルトライブチャットで金を稼いでいた。彼女に誘われてアニーもライブチャットを始めるが、そのことが学校にばれて呼び出しを食らってしまう。切羽詰まった二人は、親に知られる前にニューヨーク行きの計画を決行すべく、ネットで売春相手を探して残りの資金を稼ぐことに。募集に食いついてきたのは、フランクと名乗る中年の男だった。妻子持ちで、プール清掃サービスで働く彼は、見栄を張って身なりを整え、金持ちのフリをしてアニーとジュールズを迎えるが……。


Netflixでなぜか無数に配信されている「アダルトサイトが身を滅ぼす」系映画の一つ。身体を「売る」側と「買う」側のどちらか一方に肩入れし、他方を得体の知れない不気味な悪人として描くのではなく、両者の満たされぬ日常を同時並行で映し出すことで、やがて訪れる悲劇の不可避性を強調するのに成功している。

 

www.netflix.com

ジョン・ホワイトセル『ライトアップ! イルミネーション大戦争』2006年


Deck the Halls (2006) Official Trailer #1 - Danny DeVito Movie HD

 

クリスマスが迫る冬のある日、バディ・ホールとその家族が、アメリカ・ニューイングランド地方の田舎町に引っ越してきた。バディは双子の娘たちに、住所を入力すればその家の衛星写真を見ることができるウェブサイト「マイ・アース」(myearth.sat)を教えてもらうが、新居は地味すぎて目立たず、画面に表示されない。悔しく思ったバディは大量のクリスマス・イルミネーションを用意し、宇宙からでも見えるように自宅のライトアップを始める。向かいの家に住むスティーブは、隣家の煌々とした光や夜中の作業音を迷惑に感じ、さらにクリスマスにこだわりを持つ自身のプライドを刺激され、バディに対抗し始めるが……。


2005年に登場した地図サービス「Google Earth」とよく似た、マイ・アースという架空のウェブサイトが登場する。多くのネット映画と同様、インターネットは作中人物に行動を促し、物語が転がっていく契機となるが、その登場の仕方は唐突で、前後の文脈から切断されている印象を受ける。行為の必然性を示したり物語に説得力を持たせることよりも、作中人物にとっての「偶然性」=ありそうもない出来事を導入する、一種のマクガフィンとしての機能が重視されているのである。

 

 

ジョシュ・シュワルツ、ステファニー・サヴェージ(製作)『ゴシップガール』2007年


「ゴシップガール <ファイナル・シーズン>」DVD予告編

 

『The OC』のジョシュ・シュワルツとステファニー・サヴェージが製作したテレビドラマ。ニューヨークの高級住宅街アッパー・イースト・サイドのセレブ高校生(後に大学に進学)の恋愛模様が描かれる。The CW系列で2007年から放送を開始し、2012年のシーズン6で完結した。


各エピソードのお約束として、冒頭でアッパー・イースト・サイドのセレブ情報をスクープするブログ「ゴシップガール」の記事という体でナレーションが読み上げられ(ナレーターはクリスティン・ベル)、終わりにもゴシップガールが新たなネタを提供し、「私のこと好きでしょ? XOXO(ハグ&キス) ゴシップガール」で締めくくられる。


登場人物の心の声や超越的な視点からのナレーションではなく、誰もが読めるブログ記事であるという設定によって、ゴシップガールのナレーションは作中人物たちに直接的に影響を与え、行動を促す起爆剤の役割を担うと共に、「誰がゴシップガールなのか?」という謎もまた長期シリーズへの視聴者の関心をつなぎとめることに貢献した。

 

 

ヴィム・ヴェンダース『エンド・オブ・バイオレンス』1997年


The End Of Violence Trailer 1997

 

「暴力の終焉」を目的とした監視システムの存在に触れてしまった男の逃亡劇。


ハリウッド映画のプロデューサー、マイク・マックスは、マリブの豪邸でくつろぐ時も常に携帯電話やノートパソコンを手放さず、仕事の連絡を欠かさない「接続過剰」な男だが、監視カメラと衛星、インターネットを組み合わせた高度な監視システムに追われる立場になってからは、モバイル端末を手放し、一転してオフラインの生活を余儀なくされる。

 

事の真相を知るため、命の恩人であるメキシコ人家族の協力を得てこっそりとキンコーズに赴き、ネットスケープを立ち上げて重要メールの確認をするシーンが印象深い。

 

www.imdb.com