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揺動メディアについて。場所と風景と映画について。

ヴィム・ヴェンダース『エンド・オブ・バイオレンス』1997年


The End Of Violence Trailer 1997

 

「暴力の終焉」を目的とした監視システムの存在に触れてしまった男の逃亡劇。


ハリウッド映画のプロデューサー、マイク・マックスは、マリブの豪邸でくつろぐ時も常に携帯電話やノートパソコンを手放さず、仕事の連絡を欠かさない「接続過剰」な男だが、監視カメラと衛星、インターネットを組み合わせた高度な監視システムに追われる立場になってからは、モバイル端末を手放し、一転してオフラインの生活を余儀なくされる。

 

事の真相を知るため、命の恩人であるメキシコ人家族の協力を得てこっそりとキンコーズに赴き、ネットスケープを立ち上げて重要メールの確認をするシーンが印象深い。

 

www.imdb.com

ジョージ・モンテシ『DEADLY WEB デッドリー・ウェブ』1996年

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息子のスペンスと暮らすシングルマザーのテリー・ローレンスは、病院図書館の採用面接を受けたが、面接官アッシャー博士の反応は芳しくなかった。落胆する彼女のもとに、匿名の人物から「アッシャーは気にするな、あの仕事は君のものだ」とのEメールが届く。その言葉どおり、テリーは司書として働くことになるが、同時に、アッシャー博士が調剤事故のため急死したことを知らされる。


その後も匿名の人物からのメールは続き、卑猥なテキストや画像の送付、アッシャー博士の死をネタにした脅迫まがいのメッセージ、さらにはクレジットカードの不正利用や電話のハッキングなど、行為は次第にエスカレートしていく。警察による捜査の過程で、「サイバーゴッド」と呼ばれる凶悪なハッカーの犯行であることが判明すると、セキュリティー・コンサルタントジョーンズが調査に協力。彼は元警官で、サイバーゴッドに相棒を殺された過去を持ち、復讐を誓っていた。


サイバーストーカーを題材としたテレビ映画。「ワールドネット Worldnet」と呼ばれるオリジナルのネットワークシステムが登場する。犯罪の規模も手口もこじんまりとしており、ビジュアル面でも、時折パソコン画面に黒い蜘蛛のCGが表示されるぐらいで、全体的に地味な印象が拭えない。

 

www.imdb.com

田中登『妖女伝説'88』1988年

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「新人類を超えた次世代電脳遊戯人」として注目される若きプログラマー・赤木慶太のもとに、江本聡美と名乗る女性からパソコン通信でメッセージが届く。高度な画像送信技術で送られてきた聡美の顔写真を見て彼女に一目惚れした慶太は、その正体を突き止めようとするが、逆探知はできず、電話もつながらない。それでも諦められない慶太は聡美の知り合いを探し出し、聡美が1年前にアメリカのアリゾナ砂漠で自殺したこと、彼女の姉・律子が南足柄の新興宗教の社で巫女をしていることを知る。事情を聞いた律子がパソコンの前でお祓いをしようとすると、聡美は律子の身体に憑依。慶太の前に姿を現わす。


ロマンポルノの巨匠・田中登が監督した最後の映画作品(その後はテレビドラマの仕事を続けた)。パソコン通信を題材にした「ネット映画」前史のフィルムであり、モニタ越しの恋愛は『(ハル)』(1996年)や『接続 ザ・コンタクト』(1997年)に先駆けており、電脳空間に棲み込む幽霊というモチーフは『ヴァイラス/インターネットの殺人鬼』(1993年)や『回路』(2000年)に先駆けている。


作中には、日本の企業アスキー(ASCII)が実名で登場し、そこで慶太が開発を進めているファミコンゲーム『ダンジョン放浪記』は現実に発売が予定されていた(結局お蔵入りとなるが)。また、ゲーム開発のシーンに麻原彰晃がモデルと思しきキャラクターのイラストが映し出されることにハッとさせられる。パソコン通信、ゲーム産業、バイオテクノロジー、試験官ベビー、そしてテクノロジーやサブカルチャーと密接に結びついた新興宗教と、『妖女伝説'88』には当時の「最先端」が詰め込まれているのだ。

 

妖女伝説’88 [VHS]

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サイモン・ヴァーホーヴェン『デッド・フレンド・リクエスト』2016年


Friend Request Official International Trailer #1 (2016) - Alycia Debnam-Carey Thriller HD

 

仲の良いルームメイトと恋人に恵まれ、SNS(機能的にもデザイン的にもFacebookがモデルと見て良いだろう)のフレンドは800人以上という満ち足りた大学生活を送るローラ。ある日彼女は、孤独な同級生マリーナからフレンド申請を受ける。マリーナのアカウントはフレンド数0人、モノクロの魔術的なイラストやアニメーションが数多く投稿された不気味なものだったが、ローラは気軽な気持ちで承認。これを喜んだマリーナは、オンラインでもオフラインでもしつこく付きまとってくるようになる。煩わしく感じたローラがマリーナをフレンドから外すと、マリーナは首を吊って自殺してしまう。


そしてこの日以降、ローラの周囲で奇妙な事件が多発する。友人が次々と悲惨な死を遂げ、その様子を記録した動画がローラのアカウントから勝手に投稿されるのだ。その動画はなぜか削除することができず、SNSを退会することもできない。ローラは友人からも警察からも疑われ、孤立していく。


『デッド・フレンド・リクエスト』は、ネット特有の事象と「恐怖」の演出を結びつける手つきの巧みさと繊細さにおいて、数多のネット映画のなかで頭一つ抜きん出ている。


例えば映画の冒頭、過去にSNSに投稿された記事や画像を辿っていく体で、主人公ローラの人となりが提示される。ネット映画としての特色を打ち出しつつ、登場人物の紹介を効率的・経済的に済ませてしまう巧妙な導入だが、それだけではない。後々観客は、ここでのSNSを見つめる視線が、ローラの投稿記事や画像を熱心にチェックしていたマリーナの視線とも重ね合わせられていることに気づくのである。


大学の講義で、教授がネット中毒もしくはネット依存の問題を語るシーンが序盤に置かれているのも巧い。恐ろしい事件が起きてもSNSを見続けるローラは、彼女の主観ではマリーナの呪いを解くためにそうしているのだが、周囲からすれば、マリーナの死でおかしくなったか、それこそネット依存に陥っているようにしか見えない。覗き続けると異世界と交信できると言われる黒鏡(マリーナが儀式に使用)、パソコンやスマホの画面、その他随所に登場する「鏡」のモチーフが、境界の向こう側を見つめ、魅入られていく人間の姿を映し出している。


そして何より重要なのは、本作の「恐怖」が、フレンド申請を承認したローラ自身に危害が及ぶことへの恐怖ではなく、彼女と関わりのあった周囲の人間に危害が及ぶことによって生じている点だろう。現実のネット上の炎上案件でも、真に恐ろしいのは、自分自身が誹謗中傷を受けることではなく、家族や友人、職場にまで被害が及ぶせいで、彼らとの関係がこじれたり、疎遠になってしまうことである。たとえ自分に非がなかったとしても、周囲から疑いの目で見られたり、責められたりするうちに、何か自分に問題や原因があったのではないかという気がしてくる。ネットはそうした現代型の「ガスライティング」が横行する場所であり、本作はその恐ろしさをうまく捉えている。

 

ナンシー・マイヤーズ『ホリデイ』2006年


The Holiday (2006) Official Trailer 1 - Kate Winslet Movie

 

キャメロン・ディアスケイト・ウィンスレットジュード・ロウジャック・ブラックの競演によるラブコメディ。


ロサンゼルスで映画の予告編製作会社を経営するアマンダ(キャメロン・ディアス)は、浮気した恋人と破局し、傷心を癒すために休みをとった。彼女は「ホームエクスチェンジ」のウェブサイトでイギリス・サリーに住むコラムニストのアイリス(ケイト・ウィンスレット)と知り合い意気投合。休暇の間、お互いの家を交換することに。サリー到着直後は勢いに任せた行動を後悔するが、そこでアイリスの兄グレアムと出会い、恋に落ちる。他方、同じく恋人の裏切りに遭って落ち込んでいたアイリスもまた、ロサンゼルスで元脚本家のアーサー(イーライ・ウォラック)や作曲家のマイルズ(ジャック・ブラック)らと過ごすなかで、失恋を乗り越える気力を取り戻していく。


(ハル)』(森田芳光、1996年)や『ユー・ガット・メール』(ノーラ・エフロン、1998年)と同様、登場人物に新しい出会いを与え、物語が駆動するきっかけとしてネットが活用されている。ただし『ホリデイ』では、ネットを通じて恋愛対象の個人と知り合うのではなく、他人の生活環境や人間関係をまるごと体験することになるという点に新規性があるだろう。


なお、旅行者同士が無償で家や車を交換するホームエクスチェンジは、欧米ではネット以前から知られた旅行スタイルの一つであったが、「ホームエクスチェンジ・ドットコム」などのマッチングサイトの普及によって利用者が急増。『ホリデイ』はこの旅行スタイルを紹介・説明する際の定番映画となっているようだ。

 

ホリデイ [Blu-ray]

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伊波真人『ナイトフライト』書肆侃侃房、2017年

 

ナイトフライト (現代歌人シリーズ19)

ナイトフライト (現代歌人シリーズ19)

 

 

「郊外」や「ニュータウン」をモチーフにした作品制作をおこなっているという共通点を介して知り合った、伊波真人さんの第一歌集『ナイトフライト』(書肆侃侃房)を拝読。

一つ一つの言葉がこんなにすんなり入って来て良いのかと驚く。装画が永井博氏、帯文がKIRINJIの掘込高樹氏であるという事実に引き寄せられた感想かもしれないけれど、一首毎に、それぞれ異なるJポップの「歌い出し」が聴こえてくるような錯覚を覚える。架空の記憶と結びついた、架空のメロディを伴う言葉の群れが心地よい。

ちょうど新作の脚本執筆中に読んだこともあり、いろいろと影響を受けそう。

キム・ジウン、 イム・ピルソン『人類滅亡計画書』2012年


映画『人類滅亡計画書』予告編

 

第1話「素晴らしい新世界」(イム・ピルソン)、第2話「天上の被造物」(キム・ジウン)、第3話「ハッピー・バースデイ」(イム・ピルソン)から成るSFオムニバス。


第3話「ハッピー・バースデイ」では、小惑星の衝突を前にした人類のパニックと、ある家族の絆の再生が描かれる。小学生のミンソは、ニュース番組に映し出された小惑星がビリヤードボールのような色・形状をしており、さらには側面に「qkr0109」と刻まれていることに驚く。2年前、彼女は父親のためにネットでビリヤードボールを注文し、その際に使用したアカウントが「qkr0109」だったのだ。


ネットショッピングのつもりが宇宙人(?)と交信してしまうという荒唐無稽な物語だが、もっともらしい説明や理由づけをすることなく、勢いだけで押し切ろうとする姿勢が清々しい。

 

人類滅亡計画書 Blu-ray

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